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士業のAI活用事例|税理士・弁護士・社労士の線引き

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

士業のAI活用事例|税理士・弁護士・社労士の線引き

Key Takeaways

  • 士業の公表事例を5つの業務に分けると、多くでAIが担うのは読み取りと下書きと根拠探しで、判断は資格者に残されている。
  • 税理士法人の実証実験では、税理士の知見を具体的な事例や説明としてプロンプトに足すことで精度を上げた。
  • 法務省の令和5年ガイドラインは、弁護士に提供され弁護士が自ら精査し修正する方法で使われるAIサービスの提供を、通常は弁護士法第72条に違反しないと考えられる例に挙げている。
  • 日本弁護士連合会は2026年9月の会長談話で、令和8年の新ガイドラインが事件性必要説を前提にしている点を支持しないと表明した。
  • 顧客の情報をAIに入力するかどうかは、各士業法の守秘義務と個人情報保護委員会の注意喚起を前提に判断することになる。

顧問先の証憑も依頼者の契約書も従業員の労務記録も、士業の事務所がAIに読ませたい資料は資格者が秘密を守る義務を負う情報です。そのうえ資格者にしか扱えない業務を抱えているので、どこまでを機械の下書きとし、どこからを資格者の判断に残すかという線を他の業種より先に引いておく必要があると考えられます。税理士・弁護士・社労士の事務所と周辺の企業が公表した士業のAI活用事例を業務ごとに並べ、その線を引くときに参照できる法務省のガイドラインと各士業法の条文を添えました。

数値はすべて各事務所・各社の公表値で、監査を経た比較ではありません。ベンダーの導入事例や本人の体感を含み、計測値ではないものはその旨を本文に書きます。社名に添えた国は本社の所在地です。

士業の5業務の公表事例では、AIが読み取りと下書きを担い、判断は資格者に残る

士業のAI活用とは、資格者が確かめて顧客に渡す成果物に至るまでの工程のうち、書類の読み取り・根拠探し・下書きを機械へ移すことを指します。記帳と証憑の読み取り・税務と法令の調べもの・契約書レビュー・労務の書類と相談・顧客への説明と報告の5つに分け、それぞれでAIが担う工程と資格者に残る判断を図にしました。

士業の業務とAI活用の対応マップ。記帳と証憑の読み取り、税務と法令の調べもの、契約書レビュー、労務の書類と相談、顧客への説明と報告の5業務について、左にAIが担う工程(証憑からの項目の抽出と会計ソフトの形式への整形、根拠が載っている書籍やガイドラインの箇所探し、契約書の形式の確認、就業規則のたたき台づくり、事実の時系列表や資料の整理)、右に資格者に残る判断(仕訳と税務の判断、結論と裏取り、条項の中身の判断と修正、条項の抜けの確認と規則の仕上げ、顧客への助言と出力のレビュー)を並べた図

この記事で取り上げる公表事例の多くは、AIの出力を資格者が確かめる工程を残しています。人を減らす話として語られた事例はほとんどなく、資格者が中身を見る時間をどう空けるかが共通する論点です。人の対応量が売上の上限を決める業種という点ではBPOのAI活用事例人材紹介のAI活用事例も近く、同じ切り方で読めます。

AIの契約書チェックと弁護士法72条の線引きは、法務省と日弁連で前提が分かれている

法務省が令和5年8月に公表したガイドラインは、契約書の作成・審査・管理をAIで一部自動化して支援するサービスについて、その提供と弁護士法第72条の関係を整理したものです。判断の対象になっているのは、サービスを提供する事業者の行為です。違反するかどうかは「報酬を得る目的」「訴訟事件…その他一般の法律事件」「鑑定…その他の法律事務」の3要件で判断する枠組みです。たとえば審査する契約書について個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度が表示される場合は、「鑑定…その他の法律事務」に当たり得るとされます(法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(PDF), 令和5年8月)。

3要件のいずれにも当たる場合の例外も示されています。サービスが弁護士に提供され、弁護士が結果も踏まえて契約書を自ら精査し必要に応じて自ら修正する方法で使われる場合には、そのサービスの提供は通常は同条に違反しないと考えられるとされています。同条の解釈と適用は最終的には裁判所の判断に委ねられる、とも明記されています(法務省 令和5年ガイドライン(PDF), 令和5年8月)。

この例は、サービスを使うのが弁護士の場合のものです。企業などに所属する弁護士が所属先の契約に同じ方法で使う場合も例に挙がっていますが、弁護士でない士業が顧問先の契約書をAIで確かめる場面はどちらにも含まれていません。その場面は別に検討が要るため、所属の士業団体や顧問の弁護士に確認してください。

法務省は令和8年8月21日、ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービスの提供について、令和5年ガイドラインを補完・拡充する新たなガイドラインを公表しました(法務省 ガイドライン等の公表について, 令和8年8月21日)。概要資料では、訴状などの裁判所への提出書面や和解契約書といった法的紛議を前提とした対外書面の作成にかかるサービスの提供が、「事件性」のある案件について「鑑定…その他の法律事務」を取り扱ったと評価され得る例に挙げられています。サービス提供者への推奨事項としては、弁護士資格を持つ者の監修や実質的な関与、根拠や参照元の表示が並びます。法的結論の正確性を保証すると想起させる表現は厳に慎むこととされています(法務省 新ガイドライン概要(PDF), 令和8年8月)。

日本弁護士連合会は2026年9月1日の会長談話で、この新ガイドラインと、商事法務研究会の「AI時代における民事司法を考える研究会」の取りまとめの両方を取り上げました。新ガイドラインについては具体的な指針を示したことは評価できるとしつつ、事件性必要説を前提にしている点は支持しないと表明しています。事件性必要説は、法的な紛議が生じることがほぼ避けられないと想定される案件でなければ同条の「法律事件」に当たらないとする考え方だと、談話では説明されています。研究会の取りまとめを論じた部分では、ハルシネーション(存在しない判例・法令・事実の生成)などの問題を完全に排除するのは困難だとし、生成AIの利活用では人間自らが最終的な判断を行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の徹底が不可欠だとしています。企業法務や市民への法律相談にも同様に当てはまるとも述べています(日本弁護士連合会 会長談話, 2026年9月1日)。

弁護士であれば、所属の弁護士会の指針や、日弁連のAI戦略ワーキンググループが会員向けにまとめた注意事項もあわせて確かめてください。この注意事項は2026年2月に更新版が公表された会員限定の資料で、日弁連の公式見解を示すものではないとされています(東京弁護士会 LIBRA 2026年7・8月号 特集(PDF), 2026年7・8月)。

弁護士法とは別に、税理士と社労士にも資格者以外が扱えない業務があります。税理士法第52条は、税理士または税理士法人でない者が税理士業務を行うことを制限しています(e-Gov法令検索 税理士法, 2026年9月23日確認)。社会保険労務士法第27条も、社労士または社労士法人でない者が他人の求めに応じ報酬を得て一定の事務を業として行うことを制限しています(e-Gov法令検索 社会保険労務士法, 2026年9月23日確認)。AIの出力をどこまで事務所の成果物として扱うかは、この制限を前提に所管の窓口や各士業の連合会に確認するのが安全です。

記帳と証憑|書類から項目を抜き出し、会計ソフトの形式に整える

PwC税理士法人(日本)は、三菱商事の経理業務で生成AIを使う実証実験を支援しました。期間は2024年4〜5月の2カ月間で、AI-OCR(AIで文字を読み取る仕組み)と生成AIを組み合わせました。同法人のプレスリリースによると、保証債務の情報(被保証先会社・保証極度額・保証残高など)を契約書や残高証明書から抜き出す作業では平均97%の正解率でした。請求書から情報を抜き出して支払調書の提出要否を判定する作業では、再現率(見落としの少なさを測る指標)が98%でした(PwC税理士法人 プレスリリース, 2024年7月25日)。

士業の事務所にとって参考になるのは、精度を上げた過程のほうです。支払調書の判定では、税法上の定義をそのままプロンプトに入れても精度が上がりませんでした。そこで税理士としての知見をプロンプトに落とし込み、具体的な事例や説明を加えました。保証債務の抽出ではプロンプトの改善だけでは足りず、「契約書専門AI」「残高証明書専門AI」のように複数のAIが協働する仕組み(Multi-Agent)を実装しました(PwC税理士法人 プレスリリース, 2024年7月25日)。条文の知識と、それを実務の判定に落とす技能は別物だと読めます。

税理士法人矢﨑会計事務所(東京都練馬区)は、飲食店の顧問先の仕訳にAIを使っています。売上の税率が分かれ、決済手段ごとに入金と手数料の引落しのタイミングが違う顧問先です。マネーフォワード クラウドの導入事例によると、以前は半日かかっていた手入力の作業を、AIでデータをマネーフォワード形式に整えてインポートすることで30分以内に終えられる体制を作りました。他社ソフトから移る新規顧問先の過去データも、以前は整形に1週間ほどかかっていたものをAIで短くしました(マネーフォワード クラウド 導入事例, 掲載日の表示なし・2026年9月23日閲覧)。

同じ事例で代表は、AIによる業務の削減そのものにはあまり重きを置いていないと述べています。今は「AIに慣れておくフェーズ」という位置づけです。スタッフにはあえてAIへ税務の質問を投げさせ、その回答の裏付けを自分で調べさせる税務教育の壁打ちにも使っています。AIの情報を噛み砕いて相手に伝える人間が最終的には必要だ、という考えも示されました(マネーフォワード クラウド 導入事例, 掲載日の表示なし・2026年9月23日閲覧)。所内の経理や総務まで含めて自動化の順番を考えるときは、バックオフィス自動化入門の進め方がそのまま使えます。

調べもの|根拠が載っている箇所までAIに探させ、裏取りは資格者が行う

CrossOver法律事務所(日本)は、弁護士ドットコムのリーガル特化型AIエージェント「LegalBrain エージェント」をリサーチの最初のステップに組み込んでいます。同事務所の弁護士によれば、汎用AIの回答は根拠が分からず、その都度書籍やネット検索で裏を取る必要がありました。導入後は、調べるべき情報が書籍やガイドラインのどこに載っているかという参照先の特定が容易になったといいます。所要時間については正確に計測したわけではないと断ったうえで、半分以下で済んだと感じる機会が多いとのことです(LegalBrain エージェント 導入事例, 掲載日の表示なし・2026年9月23日閲覧)。

この事例でAIが縮めたのは、答えを出す時間ではありません。根拠にたどり着くまでの時間です。結論をAIに出させて後から裏を取る使い方では、裏取りの時間が以前と変わらず残ります。

H&R Block(米国)は2025年4月、6万人を超える税務専門家向けの生成AIソリューションをOpenAIと共同で開発すると発表しました。根拠にするのは、税務弁護士・CPA・enrolled agentで構成される社内の税務研究部門The Tax Instituteが精査したコンテンツです。そのうえで個別化された回答をリアルタイムで返すのが狙いです。初期フェーズは2025年内、大規模な展開は2026年の申告シーズンという予定でした。これは発表時点の計画で、実績ではありません(H&R Block ニュースリリース, 2025年4月15日)。AIに答えさせる範囲を資格者が精査した資料に絞っている点は、CrossOver法律事務所が挙げた、根拠のありかを示せるという利点と同じ方向です。

契約書レビュー|形式の確認を機械に寄せ、中身の判断は弁護士が持つ

法律事務所S(日本)は、弁護士10人の事務所です。LegalOn Technologiesの導入事例によると、クライアントから契約書のドラフトを受け取るとまずAIの契約リスクチェックにかけ、アラートを1つずつ確認して反映の要否を検討しています。8割くらいの契約書でこの機能を使い、契約書チェックにかかる時間は導入前の半分ほどになったと所属弁護士は感じています。これは本人の体感で、計測値ではありません。形式的な部分は機械に任せて自分は中身を見る、という役割分担がはっきりしたという発言もありました。取材は2023年1月で、当時の製品名はLegalForceでした(LegalOn 導入事例, 取材日2023年1月)。

A&O Shearman(英国)は2023年、HarveyとMicrosoftと組んで契約書ツールContractMatrixを公開しました。Harveyの顧客事例によると、同事務所の約2,000人の弁護士が毎日使っています。契約書レビューの時間は30%減ったとされ、1件あたり平均で最大約7時間の節約は推定値と書かれています。どちらもベンダーの顧客事例に載った数値で、計測方法は示されていません。修正提案はユーザーが変更履歴の形でレビューする設計で、専門家が常に確認に入る前提です(Harvey 顧客事例, 掲載日の表示なし・2026年9月23日閲覧)。

2つの事務所は規模も国も違いますが、AIの指摘をそのまま契約書に反映しない点は同じです。アラートも修正提案も、弁護士が1つずつ採るか捨てるかを決める形です。法務省の令和5年ガイドラインが例に挙げたのも、弁護士が結果を踏まえて自ら精査し修正する使い方でした。

労務|就業規則のたたき台はAIで作れても、条項の抜けを確かめる作業は社労士に残る

社会保険労務士法人エフピオ(日本)の成田雄大社労士は、ChatGPT・Claude・Copilot・Geminiの無償版に同じ3ステップの手順で就業規則を作らせました。厚生労働省のモデル就業規則をもとに内容を精査して会社情報を洗い出し、会社情報を入れて完成させ、最後に再確認と修正をする手順です。結果はAIによって大きく分かれました。関連規程まで作ったものもあれば、モデル就業規則の項目を大幅に省いたものもあったといいます。筆者の結論は、ある程度の下書きは作れるが実用に耐える規則には作り手の技術が要るというものです。筆者自身は、規則を改定するときのたたき台づくりにAIを使っています(社会保険労務士法人エフピオ ブログ(東京商工リサーチ掲載記事), 2026年4月20日)。

同じ手順を踏んでも、どのAIを使ったかで欠ける項目が変わりました。条項の抜けを確かめる作業は、AIを入れても社労士の手元に残ります。

相談の一次対応をAIに任せる形は、この記事で集めた事例ではまだ期待の段階にとどまります。ビー・アイ・シー社会保険労務士法人(日本)は、コマースロボティクスの労務相談AI「AI労務君PRO」のプレスリリースに談話を寄せました。顧問先ごとの労務情報や対応ノウハウが担当者個人に偏りやすく、新人教育や引継ぎに時間がかかることが課題だったといいます。知識をRAG(所内の資料を検索して回答の根拠にする仕組み)として蓄え、AIが一次対応を担えば社労士が判断や提案に集中できるという見通しです。談話は期待を述べたもので、効果の実績は示されていません。掲載場所は提供会社のリリースの「ユーザー&パートナー社労士法人様の声」という見出しの下です(コマースロボティクス プレスリリース(PR TIMES), 2026年2月2日)。所内の規程や過去の回答を根拠にAIへ答えさせる仕組みの考え方は、RAGの解説にまとめました。

説明と報告|事実の時系列や資料の整理をAIに寄せ、助言は資格者が出す

Bassford Remele(米国)の弁護士は、訴状や証言録取書などの依頼者資料をThomson ReutersのCoCounselに読み込ませ、10分以内に事実関係の時系列表を作りました。本人によれば、自分やチームなら数時間かかる作業です。依頼者の込み入った質問にも、1〜3日待たせずにその場で答えられることが多いといいます。同じ弁護士は、出力を必ず自分で確かめることの大切さを強調しています(Thomson Reuters ケーススタディ, 2025年6月19日)。

PwC(英国)は2023年3月、100を超える国のTax & Legal ServicesでHarveyを使えるようにすると発表しました。Legal Business Solutionsの法務専門職4,000人が、契約分析・規制対応・デューデリジェンスなどで使う計画です。すべての出力はPwCの専門職が監督しレビューするとしています。あわせて、AIを顧客への法的助言の提供には使わず弁護士の代わりにもしないと明記しました(PwC UK プレスリリース, 2023年3月15日)。

時系列表や論点の整理はAIが作り、依頼者に何を勧めるかは資格者が言う。PwCはこの線を発表の段階で文章にしていました。日本の事務所でも、顧問先や依頼者にAIの出力を渡すときは、資格者が確認した成果物として渡すのか参考情報として渡すのかを所内で決めておくと誤解を防ぎやすくなります。法務省の新ガイドラインがサービス提供者に求めた、法的結論の正確性を保証すると想起させる表現を慎むという考え方も、顧客への説明を考えるときの参考になります(法務省 新ガイドライン概要(PDF), 令和8年8月)。

顧客の資料をAIに入れるかどうかは、士業法の守秘義務と個人情報保護法を前提に事務所が決める

入力の可否に主に関わるのは、資格者に課された守秘義務と、個人情報取扱事業者としての事務所にかかる個人情報保護法です。どちらも解釈を断定できる話ではないため、個別の使い方は所管の窓口や所属の士業団体、顧問の専門家に確認してください。

守秘義務|税理士法・社労士法・弁護士法は、立場を離れた後まで秘密を守る定めを置いている

税理士法第38条は、税理士業務に関して知り得た秘密を正当な理由なく漏らしたり窃用したりすることを禁じ、税理士でなくなった後も同様としています(e-Gov法令検索 税理士法, 2026年9月23日確認)。社会保険労務士法第21条は開業社労士と社労士法人の社員に同じ趣旨の義務を課し、その立場を離れた後も同様としています(e-Gov法令検索 社会保険労務士法, 2026年9月23日確認)。弁護士法第23条は、弁護士または弁護士であった者が職務上知り得た秘密を保持する権利を持ち、義務を負うと定めています(e-Gov法令検索 弁護士法, 2026年9月23日確認)。

顧客の資料をAIサービスに入れるかどうかは、この義務を前提に判断することになります。所内で誰が何を入力してよいかを決める手順は、生成AIの社内利用ルールの作り方に書いています。

個人情報|入力する情報が利用目的の範囲に収まり、学習に使われないかを確かめる

個人情報保護委員会は令和5年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを生成AIに入力するときは、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。そのため提供事業者がその個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(PDF), 令和5年6月2日)。給与や社会保険の手続きを扱う社労士の事務所では、入力する資料に個人データにあたるものが多いと考えられます。

士業のAI活用に関するよくある質問

Q. 顧問先の資料を生成AIに入力してもよいですか?

一律には答えられません。各士業法の守秘義務があり、個人データを含む場合は個人情報保護委員会の注意喚起が求める確認も要ります。入力した情報が学習に使われないかなどの利用条件を確かめ、所内で入力してよい資料の範囲を決めてから使うのが前提です。個別の判断は所属の士業団体や顧問の専門家に確認してください。

Q. 小さな事務所は、どの業務からAIを試すのが現実的ですか?

顧客への成果物になる前の工程か、事務所の内部の業務から始めるのが無理のない順番です。東京弁護士会の会報LIBRAの特集には、生成AIの活用はまず事務所内部の業務から始めるのがよく、対外的な発信と比べて品質管理の負担が小さいとする記事が載っています(東京弁護士会 LIBRA 2026年7・8月号 特集(PDF), 2026年7・8月)。記帳データの整形や事実の時系列表づくりのように、資格者が最後に確かめる工程の手前から入ると線を引きやすくなります。

Q. AIの契約書チェックを使うと、弁護士法第72条に触れますか?

法務省の令和5年8月のガイドラインが判断しているのは、AIサービスを提供する事業者の行為です。サービスが弁護士に提供され、弁護士が結果も踏まえて契約書を自ら精査し必要に応じて自ら修正する方法で使われる場合には、その提供は通常は同条に違反しないと考えられるとされています。この例は利用者が弁護士の場合のもので、弁護士でない士業が顧問先の契約書を扱う場面は含まれていません。その場面は所属の士業団体や顧問の弁護士に確認してください。なお同条の解釈と適用は最終的には裁判所の判断に委ねられるとされ、日本弁護士連合会は令和8年の新ガイドラインの前提を支持しないと表明しています。

Q. 汎用のAIと士業向けのAIは、どちらを使えばよいですか?

用途によります。この記事の事例で士業向けのAIについて挙げられていたのは、答えの根拠が書籍やガイドラインのどこにあるかを示せるという利点と、資格者が精査した資料を根拠に答えさせるという狙いでした。また就業規則の検証では、汎用のAI同士でも欠ける項目が変わりました。どちらを選ぶ場合も、根拠をたどれるかと入力した情報の扱いの2点を先に比べると判断しやすくなります。

SAIの視点:資格者の確認の手前にある工程から、AIを置く

士業の事務所では、同じ書類が資格者の目を通す前と後で意味を変えます。所内の下書きだったものが、資格者の確認を経ると事務所の名前で顧客に渡る成果物になります。この記事で見た事例の多くも、AIをその手前に置いていました。

タブレットの左半分に書類とAIのアイコン、右半分に署名と印鑑のアイコンを示しながら、事務所の所長に説明する株式会社SAIのキャラクターのイラスト。AIに任せる工程と資格者が確認する工程を分けて話す場面

人事は、この記事で並べた5業務に入っていません。士業の事務所から受けた相談では、会計・法務・人事・労務を全般的に自動化したいというテーマが出ました。このうち会計・法務・労務は5業務と重なりますが、そこで見た事例の多くは全部を自動化せずに資格者の確認の手前で止めていました。全般的な自動化を考える場合も、業務ごとにその手前までを範囲にする見方は変わらないと考えられます。人事については、この整理がそのまま当てはまるかをこの記事の範囲では確かめられていません。

その手前がどこかを業務ごとに見つけるため、AI導入支援の進め方では書類ごとに一つの問いを立てます。その書類は資格者の確認の前にあるのか、後にあるのか。前にある工程を拾い出し、そこにAIの持ち場を決めます。守秘義務や個人情報の扱いで入力できない資料があれば、その資料に触れる工程は最初の候補から外します。

所内でAIを使う人を増やす段階では、研修だけで終わらせない設計が要ります。業種は士業ではありませんが、SAIはBCP支援企業で、業務に直結したAI研修から日常業務への組み込みまでを伴走しました(スタッフのAI活用を社内に定着させた事例)。所内の書類の形式に合わせた仕組みを作る場合の進め方と契約の条件は、FDE伴走開発にまとめています。

資格者が確かめてから顧問先や依頼者に出している書類の種類を一覧にして、お問い合わせからお送りください。書類ごとにその手前の作業をたどると、AIに下書きを任せられる候補が見えてきます。