本文へスキップ
株式会社SAI
セキュリティ

生成AIの社内利用ルールの作り方|チェックリスト付き

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

生成AIの社内利用ルールの作り方|チェックリスト付き

Key Takeaways

  • 生成AIで最も危険なのは、ルール不在のまま社員が個人アカウントで使う「野良AI」状態。ルール不在は管理の外で使われていることを意味する。
  • 全面禁止は守られず、入力内容が学習に使われうる個人アカウント利用でかえってリスクが最大化する。安全に使える道を用意して誘導するのが正解。
  • 入力情報は入力禁止(赤)・条件付き(黄)・自由(緑)の3色で線引きし、業務利用は入力データが学習に使われない会社契約の法人プランに限定する。
  • 「AIの出力を業務に使う場合、確認責任は利用者にある」と明記し、顧客に出る文章・数字・法的な内容は人の確認を必須にする。
  • 完璧な規程を待たず、決めるべき6項目をA4一枚のガイドラインにまとめてまず公開し、運用しながら育てるのが現実的な進め方。

「うちはまだ生成AIのルールを作っていない。だから正式には使わせていない」——この状態、実は最も危険です。

実際には、会社が禁止していても社員は個人のスマホやアカウントで業務の文章をAIに貼り付けている——そんな例が後を絶ちません。ルール不在は「使われていない」を意味しません。「管理の外で使われている」を意味します。

本記事では、生成AIの社内利用ルールで決めるべきことを、チェックリスト形式で解説します。

なぜ「全面禁止」が最悪の選択肢なのか

禁止ポリシーには3つの問題があります。

  1. 守られない:便利さを知った社員は、個人端末で使い続けます。会社に見えない場所で
  2. リスクが最大化する:個人アカウントの無料版は、入力内容がAIの学習に使われる設定の場合があります。最も避けたい情報流出の形です
  3. 競争力を失う:生成AIによる業務効率化が当たり前になる中、禁止企業は静かに遅れていきます

正解は「安全に使える道を用意し、そこに誘導する」こと。つまりルール整備です。

決めるべき6項目——チェックリスト

✅ 1. 入力してよい情報・いけない情報の線引き

ルールの心臓部です。おすすめは、全社員が迷わない3色の分類です。

  • 入力禁止(赤):顧客の個人情報・取引先の機密・未公開の財務情報・パスワード類
  • 条件付き(黄):社内文書・業務データ→会社契約の法人プラン・学習に使われない設定でのみ可
  • 自由(緑):公開情報、一般的な文章作成・調査・アイデア出し

「何がダメか」だけでなく「これは自由にやってよい」を明示することが、利用促進とリスク管理の両立につながります。

✅ 2. 会社として使うサービスとプランの指定

「各自好きなツールで」はNGです。会社契約の法人プラン(入力データが学習に使われない設定)を指定し、それ以外での業務利用を控えてもらいます。法人プランやAPI経由の利用では、主要サービスの多くが入力データをモデル学習に使わないことを明示しています。ここが個人利用との決定的な違いです。

✅ 3. 出力の確認責任——「AIのせい」を作らない

AIの回答をそのまま使って問題が起きたとき、責任は誰にあるのか。答えをルールに書いておきます:「AIの出力を業務に使う場合、内容の確認責任は利用者にある」。特に、顧客に出る文章・数字・法的な内容は人の確認を必須にします。この一文があるだけで、「AIが言ったので」という事故を防げます。

✅ 4. アカウントと権限の管理

  • 業務利用は会社発行のアカウントで行う(退職時に確実に停止できる)
  • 管理者は利用状況を把握できる状態にする
  • 新しいAIツールを使いたい場合の申請ルートを作る(勝手なツール追加=シャドーITを防ぐ)

✅ 5. 部署ごとの例外の扱い

経理・人事・法務など、機微情報を扱う部署は追加の制約が必要になる場合があります。逆に、開発部門にはコード補助AIの利用ルールなど、追加の許可が必要かもしれません。全社一律ルール+部署別の付則という構造にすると、管理しやすくなります。

✅ 6. 見直しのサイクル

生成AIの状況は数ヶ月で変わります。ルールに**「半年ごとに見直す」と明記**し、担当者を決めておきます。作りっぱなしのルールは、現実と乖離した瞬間に守られなくなります。

生成AIの社内規定の条文サンプルは、入れない情報・公開前に人が見る範囲・責任者を定めれば足りる

生成AIの社内利用ルールを社内規定の条文にするとき、最初の版に要るのは入れない情報・公開前に人が見る範囲・責任者の3つの条です。本記事の6項目のうち、サービスの指定は入れない情報の条に、アカウント管理・部署別の例外・見直しは責任者の条に項として足せば収まります。

3つの条は、公的な文書が利用者に求めている事柄とも対応します。IPAに掲載されている「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」は、利活用ガイドラインに書く入力制限の項目として著作権保護情報・個人情報・組織の機密情報の入力を制限するよう推奨しています。運用担当者を置く分類も示し、生成AIの安全な利活用のためのガイドライン・利用ポリシー・規定などを制定してユーザに周知する役としています。同ガイドラインは本文で有効期限を発行日から2年間としており、2026年10月時点ではその期限を過ぎた文書として参照しています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター 中核人材育成プログラム7期生「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月6日閲覧)。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版は、共通の指針「アカウンタビリティ」の中で「責任者の明示」を掲げ、各主体がアカウンタビリティを果たす責任者を設定するとしています。AI利用者に対しては、AIの出力の精度とリスクの程度を理解し、様々なリスク要因を確認した上で利用するよう示しています(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編」(PDF)/2026年10月6日閲覧)。

条文の例は次のとおりです。語は一般的な規程の書き方に寄せ、(役職名)の箇所は自社で埋めます。

条 条文の例
第1条(目的) この規定は、社員が業務で生成AIサービスを使うときに守る事項を定める。
第2条第1項(入れない情報) 次の情報は、どの生成AIサービスにも入力しない。対象は認証情報(パスワードやAPIキー)・顧客名と顧客の個人情報・取引先から秘密として預かった情報・公表前の財務情報と案件の条件とする。
第2条第2項 前項以外の社内文書と業務データは、会社が契約し入力が学習に使われない設定を確かめたサービスに限り入力できる。
第3条第1項(公開前の確認) 生成AIの出力を業務に使うときは、利用者が内容を確認する責任を負う。
第3条第2項 社外に出す文章・数値・法的な内容に出力を使うときは、公開または送付の前に利用者以外の者が確認する。
第3条第3項 生成AIに社外への送信やアカウントの操作を実行させるときは、実行の前に人が承認する。
第4条第1項(責任者) この規定の運用の責任者は(役職名)とする。
第4条第2項 責任者は、会社が発行するアカウントと利用を認めるサービスの一覧を管理し、部署ごとの例外を付則として定める。
第4条第3項 責任者は、この規定を半年ごとに見直し、変更を社員に周知する。

当社も入れない情報は種類で決めています。鍵(パスワードやAPIキーなどの認証情報)・顧客名・未公開の案件条件の3種類で、AIに読ませる指示ファイルに書いています。そのうえで、止めたい操作は文書ではなく権限の設定で止めています。条文は線を伝える文書で、操作そのものを止める仕組みではないからです(社内ナレッジの生成AI活用に書いた運用です)。

条文の例は考え方の見本で、このまま使える規程ではありません。法的な有効性は、自社の就業規則や情報管理規程との整合を含めて専門家に確認してください。

生成AIの入力が学習に使われるかは、契約の種類ごとに利用規約とデータ取扱いの記載で確かめる

生成AIの入力が学習に使われない設定かどうかは、契約の種類ごとに提供事業者の利用規約とデータ取扱いのページで確かめます。確かめる項目は、入力が学習に使われるか・どこまで保持されるか・管理者がどこまで見られるかの3つです。条文の例の第2条第2項にある「入力が学習に使われない設定」も、この手順で確かめます。

個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含むプロンプトを生成AIサービスに入力する場合、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると法違反となる可能性があるともしています。このため、提供事業者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。一般の利用者向けには、提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し、入力する情報の内容等を踏まえて利用を判断するよう示しています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」(PDF)/2026年10月6日閲覧)。

以下は3社のデータ取扱いのページを2026年10月6日に読んだ範囲で、記載は更新され得ます。

AnthropicのClaude for WorkとAPIは、既定では学習に使わず例外を書いている

Anthropicは、法人向け製品(Claude for Work・Anthropic API・Claude Gov等)の入力と出力を、既定ではモデルの学習に使わないと記載しています。法人向けでも例外があり、明示的にフィードバックやバグ報告を送った場合は会話やコーディングセッションを学習に使うことがあるとしています。高評価・低評価ボタンのフィードバックでは、関連する会話全体を最大5年保存します。TeamとEnterpriseのPrimary OwnerまたはOwnerは、Rate chatsの設定でメンバーの送信を止められます(Anthropic「Is my data used for model training?」(Privacy Center)/2026年10月6日時点の記載)。

**保持期間は製品で分かれます。**Anthropic APIでは、入力と出力を受信または生成から30日以内にバックエンドで自動削除するとしています。例外として、Files API等の長期保存機能・ゼロデータ保持等の個別合意・利用ポリシーの執行・法令対応が挙げられています。会話を保存できるClaude for Work等では会話とコーディングセッションを製品内に保持し、利用者はいつでも削除できます。削除した会話はバックエンドから30日以内に消え、利用ポリシー違反と判定された場合は入力と出力を最大2年保持するとしています(Anthropic「How long do you store my organization’s data?」(Privacy Center)/2026年10月6日時点の記載)。

管理者が見られる範囲について、Claude for Work(Team・Enterprise)では組織が指定したPrimary Ownerがアカウントと関連データを管理します。データのエクスポートで利用者のデータを取得でき、そこには会話・アップロードしたファイル・利用状況が含まれ得ます。組織は、メンバーが使えるClaudeのサービスや機能を決め、一部を制限することもできます(Anthropic「Who owns and manages the data of my team?」(Privacy Center)/2026年10月6日時点の記載)。

Claude Codeには別の公式文書があり、商用条件(TeamとEnterpriseのプラン・API・他社プラットフォーム・Claude Gov)で送られたコードやプロンプトをAnthropicは生成モデルの学習に使わないとしています。例外は顧客が提供を選んだ場合で、商用利用者の標準の保持期間は30日です(Anthropic「Data usage」(Claude Code Docs)/2026年10月6日時点の記載)。契約の種類ごとの判断の型は、Claude Codeの企業利用にまとめています。

OpenAIのAPIはオプトインしない限り学習に使わず、不正利用監視のログは保持する

OpenAIは、2023年3月1日以降にOpenAI APIへ送られたデータを、明示的にオプトインしない限りモデルの学習や改善に使わないと記載しています。不正利用監視のログは既定ですべての機能の利用について作成し、法令上必要な場合等を除いて最大30日保持します。ログにはプロンプトや応答等の顧客コンテンツが含まれ得ます。ゼロデータ保持等の除外は事前承認制です。ログとは別に、会話を保存する機能などではリクエストを果たすためのデータを削除するまで保持するエンドポイントもあります。この記載はAPIが対象で、ChatGPTの法人向けプランには触れていません(OpenAI「Data controls in the OpenAI platform」/2026年10月6日時点の記載)。ChatGPTを会社で契約する場合は、そのプランの規約とデータ取扱いのページを別に確かめます。

Google Workspaceは許可なく学習に使わず、保持期間は管理者が決める

Googleは、Google Workspaceがプロンプトを含む顧客データを、顧客の事前の許可や指示なしにモデルの学習に使わないと記載しています。根拠はGoogle Workspaceサービス固有規約の「Training Restriction」の条項としています。Gemini in Workspaceのプロンプトと回答の保持期間は、管理者が90日から無期限の間で決めます。Geminiアプリでは最大36か月で、管理者が3・18・36か月から自動削除を選び、既定は18か月です。Gemini in Workspaceの会話は本人だけに表示され、共有ファイルでも他の共同編集者はプロンプトや回答を見られません。一方でWorkspaceは管理者に、Geminiでの利用者の操作ややり取りを追跡する監査ログを提供しています(Google「Generative AI in Google Workspace Privacy Hub」(Google Workspace Help)/2026年10月6日時点の記載)。

学習に使われない契約を選んでも、渡さない情報の線は動かさない

3社の記載には、学習に使わない既定と並んで保持期間と例外が書かれています。学習に使われない契約でも入力はしばらく保持され、組織の管理者がエクスポートや監査ログで扱える範囲もあります。そこで第2条第1項の情報は、契約を確かめたあとも入れない側に置いたままにします。AI事業者ガイドライン第1.2版も、AI利用者が重要な事項として、AIシステム・サービスに機密情報等を不適切に入力しないよう注意を払うことを挙げています(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編」(PDF)/2026年10月6日閲覧)。自社の契約への当てはめは、法務や専門家に確認してください。

ルールは「1枚」から始める

完璧な規程を作ろうとして、委員会が半年議論する——これが二番目に悪いパターンです。その間も野良AI利用は続いています。

おすすめは、上の6項目をA4一枚のガイドラインにまとめてまず公開し、運用しながら育てることです。「これは暫定版で、現場の声で更新していく」と宣言すれば、完璧である必要はありません。

ルールとセットで「教育」を

ルールは配るだけでは機能しません。「なぜ個人アカウントが危ないのか」「学習に使われるとはどういうことか」を理解して初めて、社員は納得して従います。成果につながるAI研修の設計で解説したとおり、ルール説明と実践訓練をセットにした研修が定着の近道です。

ルールを作った後——社内利用を定着させるには

ルールの公開はゴールではなくスタート地点です。生成AIの社内利用が根付くかどうかは、その後の運用で決まります。

  • 推進役を置く:部署ごとに「まず使ってみて広める」役割を決めます。専任である必要はなく、新しい道具が好きな人に「公認」を与えるだけで空気が変わります
  • 使い方を共有する場を作る:月に一度、うまくいった使い方を持ち寄る短い会を開きます。禁止事例の周知よりも成功例の共有のほうが利用は広がります
  • ユースケース集を配る:「議事録の要約」「メールの下書き」「企画のたたき台」など自社の業務に即したプロンプト例を配ると、最初の一歩のハードルが大きく下がります

ルールで安全な道を用意し、運用で背中を押す。この両輪が揃って初めて「使われるAI」になります。定着までの体制づくりはAI人材の育成ステップで詳しく解説しています。

SAIの視点:セキュリティは「攻めるための守り」

私たち株式会社SAIのAI導入支援では、利用ルールの策定を導入プロセスの標準ステップに組み込んでいます。ルールがあるから、現場は安心してアクセルを踏める——セキュリティ整備は活用のブレーキではなく、むしろ前提条件です。

「自社のルールが今の使い方に合っているか見てほしい」「これから作るのでたたき台がほしい」——どちらのご相談も歓迎です。お問い合わせはこちら。

出典と確認日

いずれも2026年10月6日閲覧。利用規約・データ取扱い・プライバシーのページは同日時点の記載で、更新され得る。IPAの導入・運用ガイドラインは中核人材育成プログラム7期生のプロジェクトの成果物で、本文は著者の見解に基づくとしている。当社の記録は社内ナレッジの記事に公開済みの範囲で、導入の実績ではない。