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BPOのAI活用事例|一次対応・品質管理・事務処理の公表実例

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

BPOのAI活用事例|一次対応・品質管理・事務処理の公表実例

Key Takeaways

  • BPOのAI活用は業務ごとに効き方が違い、公表事例は一次対応・応対中の支援・言語対応・品質管理・事務処理の5領域に整理できる。
  • 一次対応ではKlarnaが稼働1か月でチャットの3分の2をAIが処理したと発表し(同社は2025年に人の採用へ方針を見直している)、トランスコスモスは1時間当たりの解決件数が電話対応のみと比べ4.3倍になったと公表している。
  • 応対中のオペレーター支援ではTTECがエスカレーションの40%減を、品質管理ではWNSが監査工数の50%減を公表しており、どちらも応対そのものを変えずに効く領域である。
  • 事務処理ではGenpactが人手を介さない請求書処理を7%から最大約65%へ引き上げ、Firstsourceは重要な判断ポイントに人のレビューを残したうえで処理時間を最大93%削減したとしている。
  • 公表値の多くはベンダーの自己申告であり、入電が減るという説明のもとで要員を削ったCommonwealth Bank of Australiaのように前提が外れる例もあるため、導入と要員計画は切り分けて判断する必要がある。

「AIで人手を減らせるはずだ」——BPOほど、この期待と警戒が同時に向く業種はありません。人を張り付けた業務量で請求する受託モデルでは、一次対応や事務処理が機械に寄るほど効率化の成果が自社の売上減として跳ね返ります。各社が公表したBPOのAI活用事例を業務ごとに見たうえで、要員を先に削った銀行がなぜ撤回に至ったのか、効率化の取り分を受託側に残す契約の形はあるのかまで追います。

数値はすべて各社の公表値で、監査を経た比較ではありません。多くはベンダーか導入企業の自己申告にあたります。社名に添えた国は本社の所在地です。

BPOの5領域を、AIが担う工程と人に残る判断で分ける

受託業務を問い合わせの一次対応・応対中の支援・言語と話し方・品質管理と監査・事務処理の5つに分け、それぞれでAIが担う工程と人に残る工程を図にしました。

BPOの業務とAI活用の対応マップ。問い合わせの一次対応、応対中のオペレーター支援、言語と話し方の処理、品質管理と監査、事務処理の5領域について、AIが担う工程と人に残る工程を並べた図

AIが担うのは受ける・探す・整える・数えるという工程に偏り、例外の判断と責任を引き受ける行為は人に残ります。着手の順番は、この線引きの位置を見てから決めます。同じ受託の立場で反響対応や架電を並べた営業代行のAI活用事例と、書類の読み取りと不備の検知を扱った不動産売買のAI活用事例は、この図と同じ切り方で読めます。

一次対応|問い合わせの入口をAIが受ける

決済企業のKlarna(スウェーデン)は、OpenAIと組んだAIアシスタントをカスタマーサービスの一次対応に投入しました。同社のプレスリリースによると、稼働1か月で230万件の会話を処理し、これはカスタマーサービスのチャットの3分の2にあたります。フルタイム換算で700人分の業務量に相当し、顧客満足度は人のオペレーターと同等だとしています。回答精度の向上で再問い合わせが25%減り、平均解決時間は11分から2分未満になったと同社は述べています(Klarna Press Release, 2024年)。

ただしKlarnaは翌年に方針を見直しています。業界メディアCX Diveの報道によると、同社CEOは費用を重視しすぎた結果として品質が下がったと述べ、人のカスタマーサービス要員を採用する試験プログラムを始めました。AIが問い合わせの3分の2を扱う状態は続いており、採用の狙いのひとつは外部委託している数千人分の業務を自社の要員に置き換えることだと同記事は伝えています(CX Dive, 2025年5月)。受託する側から見れば、発注側がAIと自社要員の組み合わせで委託の範囲そのものを見直した例です。

日本にも近い事例があります。トランスコスモス(日本)は、生成AIチャットBotを載せたハイブリッドチャット「trans-Chat Support」を日本生活協同組合連合会の「コープのギフト」に2024年10月から導入しました。同社のニュースリリースによると、1時間当たりの解決件数は電話対応のみと比べて4.3倍に増え、1件当たりの平均対応時間は約7分短縮しました(トランスコスモス ニュースリリース, 2025年)。電話をなくしたわけではありません。電話・チャットBot・有人チャットを併存させたまま、チャット窓口の生産性を上げた事例です。同じ発想を小規模で試す道筋は中小企業の生成AI業務自動化にまとめています。

応対支援|オペレーターの隣にAIを置く

BPO大手のTTEC(米国)は、自社と15社のBPOクライアントのコンタクトセンターにGoogle CloudのCustomer Engagement Suiteを導入しました。1,400名を超えるカスタマーケア担当が利用しています。Google Cloudの公式ブログによると、応対中に助言するAgent Assistでエスカレーション(上位担当者への引き継ぎ)が40%減りました。ナレッジ検索のKnowledge Assistでは平均処理時間が11%短縮し、新人では18%改善したとしています。通話サマリーの自動生成は平均処理時間と後処理時間(通話後の記録作業にかかる時間)を30秒縮め、あるクライアントでは後処理時間が4分短くなりました。給与・福利厚生ヘルプデスクや人事、機器返却や欠勤連絡といった領域では、Conversational Agentsがやり取りの最大40%を自動化したとされます(Google Cloud Blog, 2025年)。

Concentrix(米国)は、生成AI基盤「iX Hello」をオペレーター支援とセルフサービスに組み込んでいます。同社のプレスリリースは、調査会社NelsonHallの評価として初回回答の正確性が10%高まったと紹介しています。あわせてオペレーターの検索時間が15%減り、主要タスクの完了は最大80%速くなったとしています。あるクライアントではデジタル経由のサポートが57%増える一方、音声通話は30%減りました(Concentrix プレスリリース, 2026年)。

言語対応|話し方と言語の壁を通話中に処理する

コンタクトセンターBPOのAlorica(米国)は、Sanasのリアルタイム音声変換AIを応対に導入しました。発話をその場で整え、聞き取りやすさを上げる技術です。同社のニュースリリースによると、先行導入企業では平均処理時間が18%短縮しました。食品注文系の急成長スタートアップでは転送が70%減り、大手保険会社では通話の切断が12%減ったとしています。グローバルなホスピタリティ企業ではコンバージョン率が50%向上し、大手フードデリバリーでは売上が40%増えたとしています。オペレーターの利用率は96%だとしています(Alorica Newsroom, 2025年)。

Transcom(スウェーデン)は、AvayaおよびSabio Groupと共同で音声のリアルタイム翻訳ソリューションを構築しました。音声認識と複数の翻訳エンジンと音声合成を、専用辞書と組み合わせる構成です。報道によると、世界のどこにいるオペレーターでも100を超える言語で顧客と会話できるようにするものです(Intelligent CIO North America, 2024年)。同社の幹部は用途と市場によって25%、多い場合は65%のコスト削減が見込めると述べています。これは実測値ではなく見込みです。採用を語学力ではなく知識で判断できる点が、主張の中心にあります。

品質管理|監査を抜き取りから全通話に近づける

WNS(インド)は、アジア太平洋の大手保険会社のコンタクトセンター品質管理にAIの応対分析を適用しました。保険金請求・販売・カスタマーケアの評価を自動化する構成です。同社のケーススタディによると、この保険会社は年間500万件の通話のうち2%しか監査できていませんでした。126項目の品質評価パラメータのうち63項目は自動判定に置き換えたとしています。導入後は品質監査の工数が50%減り、レポート作成の工数は40%減り、監査カバレッジは全通話の80%に広がったとしています(WNS Case Studies, 2025年)。

Teleperformance(フランス)は、自社AI基盤「TP.ai FAB」をクライアント業務へ横展開しています。同社の2025年通期決算説明資料によると、2025年に展開したAIプロジェクトは500件を超え、うちオペレーター支援のFAB Assistが270件超を占めました。同じ資料は導入例として、米国の大手医療保険会社でFAB Assistにより品質評価スコアが30%向上し、アジアの大手銀行ではFAB Connectで初回解決率が25%上がったとしています。中南米の大手通信会社では債権回収のFAB Collectで支払い約束率が4ポイント上がり、グローバルなテクノロジー企業ではFAB Growthで成約率が38%向上したとしています(Teleperformance「FY 2025 results」決算説明資料(PDF), 2026年2月26日・28〜29ページ)。

事務処理|請求書・データ・審査の処理をAIに寄せる

BPO大手のGenpact(米国)は、50カ国近くに700を超える拠点を持つ物流企業の買掛金業務にAIを導入しました。請求書データの抽出をGenpact AP Captureが担い、三方照合(発注書・納品書・請求書の突き合わせ)と例外処理はGenpact AP Advanceが担当します。21体の事前学習済みAIエージェントは、どの請求書から手を付けるべきかの優先順位付けを支援します。同社のケーススタディによると、人が触れずに完結する処理は7%から最大約65%へ上がり、データ抽出精度は40%から92%へ改善しました。処理サイクルは18〜29日から9〜14日に縮み、初回処理成功率は67%から85%に上がっています。期日内の支払いは60%から最大95%に増えたとしています(Genpact Case Studies, 掲載日の表示なし・2026年9月15日閲覧)。社内で同じ改善を進める場合の考え方はバックオフィス自動化入門で扱っています。

Firstsource(インド)は、UAEのAppliedAIと組んで構築したAIエージェントを2つの本番業務に投入しました。1つは医療保険者向けの医療従事者データ管理で、様式がばらばらな原本から資格や免許の情報を処理します。もう1つは教育機関の出願審査で、願書レビューや資格確認や書類チェックを扱います。同社のプレスリリースによると、前者は処理時間を最大93%削減し、1レコードあたり約15分だった作業が1分未満になりました。後者はスループットが5〜10倍に上がり、1出願あたり約8分が約2分になっています。手作業の工数は最大90%減ったとされます(Firstsource Newsroom, 2026年)。同社は重要な判断ポイントごとに人のレビューを残していると明記しています。

要員削減はAI導入と同じ意思決定にまとめない

オーストラリアのCommonwealth Bank of Australiaは、コールセンターにAIボイスボットを導入したうえで45人分のポジションの削減を発表しました。ABC Newsによると、同行は導入で入電が減ると説明していましたが導入後の入電はむしろ増え、金融部門労組は残業の手配やチームリーダーの電話対応が起きていたと指摘しています。同行は関連する事業上の考慮を十分に行っていなかったと認め、削減を撤回して謝罪しました(ABC News, 2025年)。AI導入と要員計画を同じ意思決定にまとめると、片方の想定が外れたときに戻しにくくなります。

対照的な例もあります。自社サポートにAIエージェント基盤を展開したSalesforce(米国)について、FortuneはCEOの発言としてサポート人員が9,000人から約5,000人になったと伝えています。やり取りの半分はAIエージェント、半分は人が担う形です。同社は数百名を他部門へ配置転換したとしています(Fortune, 2025年)。こちらはAIが半分を担っているという処理実績を挙げたうえで人員の規模を説明している点が、Commonwealth Bank of Australiaの例と異なります。

工数課金のままでは、効率化が受託側の売上減になる

ロイターの記事によると、TCS(Tata Consultancy Services・インド)のK Krithivasan CEOは、財務や人事などの業務受託契約のうち約80%が成果指標に基づく形になったと語っています。同記事は関係者の話として、この比率がAIの普及した2023年後半以降で倍増したと伝えています。同記事はPersistent SystemsのSandeep Kalra CEOの発言も伝えており、顧客は同じ仕事を25〜30%安く求めているとしています(ロイター(The Star配信), 2026年)。工数で請求する形のままAIを入れると、効率化がそのまま自社の売上減少になります。課金の単位が工数か件数か成果指標かで、効率化の取り分がどちらに落ちるかが決まります。契約更新のときに見るのはこの単位です。

日本のBPOでは、委託元の契約条件と品質指標の定義を先に決める

海外の事例を受託業務に当てはめる前に、委託元との間で決めておく点が2つあります。

応対ログと帳票をAIに読ませる条件を、委託元と先に確かめる

個人情報を含む応対ログや帳票をAIに読ませる場合、委託元との契約条件と個人情報保護法上の取り扱いを先に確認する必要があります。金融や医療のように業法上の制約がある領域では、業務ごとに条件が変わります。個別の適法性は法務や専門家へ確認してください。海外事例の多くは、テキスト化されたログや構造化された業務データがそろっている前提で成り立っています。紙とスキャンPDFのままでは同じ手が使えません。データを整える順番は脱Excelの進め方に書いています。

品質指標の定義を据え置いたまま、AIを入れない

監査カバレッジが上がれば、これまで見えていなかった不備も見えるようになります。指標の定義を据え置いたままAIを入れると、改善が数字に出ないか悪化して見えることがあります。委託元に報告する品質指標は、導入前に定義と測定期間をそろえておく必要があります。定着までの設計はAI導入が定着しない理由と対策にまとめています。

BPOのAI活用に関するよくある質問

Q. 委託元の応対品質に触れずに始められるAI活用はありますか?

品質監査が候補になります。応対そのものを変えず、内部の監査工数だけを対象にできるため影響範囲を絞りやすい領域です。ただし応対ログをAIに読ませる条件は委託元との契約で決まるため、データの扱いの確認は省けません。

Q. 委託元から海外事例と同じ数値を求められたら、どう答えればよいですか?

本記事の数値の多くはベンダーや導入企業の自己申告で、比較対象や測定期間も統一されていません。自社の現状値を先に測り、同じ定義で前後を比べる提案に置き換えるのが現実的です。数値を先に約束するより、測り方をそろえてから比べる形にするほうが安全です。

Q. AIを入れると、BPOの委託費はその分だけ下がりますか?

契約の形によります。工数で課金する契約では効率化した分だけ請求が減るため、委託費は下がる一方で受託側の売上も減ります。ロイターが伝えたTCSの例のように成果指標へ課金を移す動きはありますが、効率化の取り分をどう分けるかは契約条件の設計次第です。

Q. 日本語の応対でも、海外事例と同じことができますか?

使える部分とそうでない部分があります。要約や分類や検索は日本語でも実用域に入っていますが、敬語の運用や業界固有の言い回しは調整が要ります。海外の数値をそのまま当てはめず、自社のログで小さく試すのが安全です。

SAIの視点:受託の工程を、AIの使いどころで割り直す

BPOの受託業務は、契約書の業務一覧よりも細かい工程で動いています。一次対応ひとつをとっても受付・本人確認・回答・後処理に分かれ、AIが受けられるのはそのうちの一部です。株式会社SAIは、この工程の粒度で線を引くところから関わっています。

AI導入支援では、受託業務を工程まで割り、AIが受ける工程と人が判断する工程の線を引くところを出発点にします。委託元との契約条件と品質指標の定義をこの段階で確かめ、要員計画とは切り離して進めます。

FDE伴走開発では、エンジニアが受託の現場に入って応対ログや帳票を実際に見ながら試作を回します。品質監査の自動判定のように、実データを見ないと設計できない領域に向く進め方です。

手元にあるのが受託業務の一覧と品質指標の定義だけでも構いません。最初のご相談では、品質指標の定義と要員計画をAI導入から切り離したうえで、どの受託業務から着手するかを決めるところから始めます。お問い合わせください。