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株式会社SAI
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インサイドセールスの立ち上げ方|中小企業の最小構成と仕組み化

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

インサイドセールスの立ち上げ方|中小企業の最小構成と仕組み化

Key Takeaways

  • インサイドセールスは電話・メール・オンライン商談でリストを温め続け、検討が進んだ相手だけを訪問に渡す内勤型の営業で、テレアポのようにその場の刈り取りで終わらない。
  • 訪問営業を望む声は買い手より売り手側に強く、買い手で訪問を望むのは4割にとどまるので、インサイドセールスは訪問をやめる話ではなく訪問先を選ぶ仕組みになる。
  • 中小企業の経営課題は人材確保と受注・販売の拡大が上位を占め、営業を増員せずに商談数を増やす手段として内勤の分業が必要になる。
  • 最小構成は兼任1名・散在する見込み客情報を1枚にまとめたリスト・接触内容を必ず残す記録のルールの3点で、ツールの選定は回り始めてからでよい。
  • AIは通話記録の要約とアプローチ先の優先順位付けから使うと効果が出やすく、送信前の確認は人に残す。

インサイドセールスとは、電話・メール・オンライン商談で見込み客と関係を築き、検討が進んだ相手だけを商談に渡す内勤型の営業です。「営業は足で稼ぐもの」でやってきた会社ほど、担当者に会えない訪問と移動の時間が商談数の上限になっています。専任チームもSFA(営業支援システム)もない会社に足りないのは「誰を置き、最初に何を記録するか」を1枚に書いた手順で、大企業やSaaS企業の型は専任チームとツール選定を出発点にしてそこを飛ばしています。兼任1名が最初の1か月に作るリストと記録のルール、そして記録が止まったときの直し方までを始める順に書きました。

訪問営業へのこだわりは買い手より売り手に強く、インサイドセールスは訪問先を選ぶ仕組みになる

「うちの商材は会って説明しないと売れない」という前提が売り手側に偏っていることは、数字に出ています。HubSpot Japanが売り手1,545名と買い手515名に行った2025年の調査で、「訪問型営業の方が好ましい」と答えた売り手は52.3%で2023年から同水準です。買い手で「訪問型営業の方が好ましい」は40.4%にとどまり、「どちらでもよい」が32.8%で「非訪問型営業の方が好ましい」が26.8%でした(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026 データ集」 p.11、2025年10月30〜31日実施。売り手は従業員数50〜5,000名の企業に勤める人に限定)。訪問を望む理由として「ビデオ会議や電話で説明を受けるには複雑すぎる商材だと感じる」を挙げた買い手は26.6%で、年々減少しています(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2024」、2024年2月19日発表。2023年11月24〜27日実施)。

訪問が要らないという話ではありません。2024年版の調査では、買い手が訪問を望む理由として「営業担当者の顔を見ると安心感がある」を挙げた割合が前回より増えており、信頼が要る局面では訪問が効くことも読み取れます。変わったのは、すべての相手に訪問で入る必要がなくなったことです。インサイドセールスの役割は訪問の代替ではなく、「今すぐではない相手」を電話・メール・オンライン商談で温めながら、検討が進んだ相手だけを訪問に渡す選別にあります。

買い手が営業担当者に求めるものも変わっています。HubSpot Japanの2026年版調査では、「自社の課題・要望に合わせた提案が欲しいとき」に営業担当者を必要とする買い手が2022年の46.4%から2025年は39.0%へ減りました(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026」、2026年2月27日発表。2025年10月30〜31日実施)。一般的な説明は会う前に済んでいる前提で、検討の初期から役立つ情報を届けて選ばれる状態を作る必要があります。これは営業手法だけの話ではなく、GTM戦略全体の設計に関わる変化です。

テレアポとの違いは、断られたリストを捨てずに温め続けること

テレアポはその場でアポイントを取ることがゴールで、断られたリストは実質的に使い捨てになります。インサイドセールスは今すぐ買わない相手も含めてリストを温め続けることがゴールで、情報提供と定期的な接触を重ねて検討度が高まったタイミングで商談につなげます。BtoBの購買は検討期間が長く、「今は必要ない」が数か月後に「そろそろ検討したい」へ変わることが珍しくありません。テレアポが点の刈り取りなら、インサイドセールスは線で付き合い続ける仕組みです。

中小企業に必要な理由は、人材確保と受注拡大が同時に経営課題の上位にあるから

「営業を増やして訪問件数を増やす」という拡大策が、今の中小企業では取りにくくなっています。2026年版中小企業白書によると、最も重視する経営課題は中規模企業で「人材確保」が44.7%と最多で、「受注・販売の拡大」が29.0%で続きます。小規模事業者では順が逆で「受注・販売の拡大」が36.6%、「人材確保」が16.7%です(中小企業庁「2026年版中小企業白書」第1部第1章第3節・第1-1-13図。帝国データバンクとデロイト トーマツが2025年11〜12月に実施した調査に基づく)。売上を伸ばしたいが人は採れないという状態が規模を問わず上位2つを占めている以上、営業の人数を前提にしない伸ばし方が要ります。訪問すべき相手を見極め、それ以外は内勤で対応する分業がその答えです。

最小構成は兼任1名・リスト1枚・記録のルールの3点で、ツールは回り始めてから選ぶ

専任チームや高機能なツールをそろえる必要はありません。営業組織でCRM(顧客情報と営業活動の記録を一元管理するソフト)を導入している割合は38.1%で2022年から大きな変化がなく、「顧客情報の管理方法は明確ではない」と答えた売り手も32.8%います(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026 データ集」 p.10、2025年10月30〜31日実施)。CRMの導入率が4割に届かない以上、ツールは立ち上げの前提ではありません。最初の1か月の目的は受注ではなく、リストと記録が回る状態を作ることです。始めるのは次の3点です。

1. 兼任の担当者を1名決める

既存の営業か営業事務から兼任1名を決めます。選ぶ基準は「手が空いている人」ではなく、記録をまめに残せる人と文章での連絡が苦にならない人です。訪問営業の担当者にそのまま兼任させると、訪問の予定が入った日に内勤の追客が止まります。訪問の少ない人か営業事務のほうが続きやすく、専任化やチーム化は成果が見えてからで遅くありません。

2. 散らばった見込み客情報を1枚のリストにまとめる

名刺・問い合わせ履歴・過去の失注案件・展示会で得た連絡先を1か所に集めます。最初はExcelやスプレッドシートで十分で、項目は会社名・担当者・接点の経緯・最終接触日・検討状況の5つに絞ります。項目を増やすほど入力が続かなくなるので、最初の1か月は5項目で固定します。失注案件と休眠顧客は後回しにされがちですが、営業代行各社がAIで掘り起こしに使っているのもこの在庫です(営業代行のAI活用事例)。

3. 「誰に・いつ・何を伝え・次はいつ」を必ず残す記録のルールを決める

記録がなければ、リストを温め続けることはそもそもできません。担当者の頭の中にしかない情報は、その人が休んだ瞬間に止まります。ルールは「接触したら当日中に4項目を書く」の1行で足ります。書式を作り込むより、「書かなかった接触は無かったことにする」という運用のほうが効きます。

立ち上げが止まる原因は記録の欠落と商談化条件の曖昧さの2つで、どちらも回り始めてすぐ出る

典型的なつまずきは担当者の能力ではなく、記録が最初の1か月のうちに途切れることです。原因は入力の手間と、記録を誰も見ないことの2つです。HubSpot Japanの2024年版調査で営業組織のデータ活用の困りごとを聞くと売り手の79%が何らかの困りごとを挙げ、上位には「営業部署内のデータが適切に管理されていない」が入りました(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2024」、2024年2月19日発表。2023年11月24〜27日実施)。先に決めるのは記録を見る人です。週1回15分でよいので、リストを上から眺めて次の接触先を決める場を置きます。見られている記録は続き、見られない記録は止まります。

もう1つは商談化条件の曖昧さです。どの状態になったら訪問営業に引き渡すかが決まっていないと、「まだ早いリストを渡された」「送客したのに放置された」という摩擦が必ず起きます。条件は「予算の有無」「導入時期」「決裁者との面談可否」のように、記録の項目から判定できる形で書きます。訪問営業側が納得していない条件は守られないので、兼任者と訪問営業が同じ席で決めるのが前提です。

属人化を防ぐ仕組みは、追客ルール・メールの型・商談化条件の3つを文書にすること

最小構成で回り始めたら、個人の頑張りを仕組みに変えていきます。

1. 追客ルールを条件と行動のセットで決める

「資料請求があったら3営業日以内に連絡する」「失注案件には3か月ごとに情報提供の連絡を入れる」のように、条件と行動をセットで決めます。担当者の記憶や気分に頼らないことが温め続ける仕組みの核心で、ルールはリストの「最終接触日」から機械的に判定できる形にします。

2. 場面別のメールの型を用意する

初回接触・資料送付後のフォロー・しばらく接点のない相手への再接触の3場面で型を用意し、毎回ゼロから書かないようにします。文面は送りながら反応を見て直せば十分です。型に「動くものを見せる」一文を入れておくと、訪問より前に相手の検討が進みます。動くデモを商談の前に見せる考え方は営業デモの作り方と見せ方に書いています。

3. 商談化条件と受注後の引き継ぎまで書く

前の節で決めた商談化条件を文書にし、訪問営業に渡すときの引き継ぎ項目も同じ紙に載せます。受注後に顧客の立ち上がりを誰が支援するかまで流れを設計しておくと、インサイドセールスが温めた関係が導入後も切れません。受注後の設計はカスタマーオンボーディング設計に、営業からの引き継ぎ書式を含めて整理しています。

AIは通話記録の要約とアプローチ先の優先順位付けから使い、送信前の確認は人に残す

ツール導入から始めるのは順序が逆で、スプレッドシートで回る仕組みができてから道具で解決します。入れる場所は2つに絞ります。HubSpot Japanの2026年版調査でその業務に生成AIを使っている人の週あたり平均削減時間を業務別に見ると、「CRM/SFAへの活動記録の入力」が4.0時間で「アプローチ先のリストアップや優先順位付け」が3.9時間と特に大きい結果でした(HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026」、2026年2月27日発表。2025年10月30〜31日実施)。記録が続かない最大の原因は入力の面倒くささで、ここをAIが肩代わりできます。

  • 記録の自動化:オンライン商談や通話の内容をAIで文字起こしして要約し、リストの「何を伝えたか」の欄に貼る。人は次の接触日だけを決める
  • アプローチ先の優先順位付け:最終接触日と検討状況からその週に連絡する相手を並べ替え、メールの型に相手の業種と接点の経緯を差し込んだ下書きを作る。送信前に人が確認して微調整する

ヒアリングの議事録をAIで要約して日常業務に組み込んだ例は、BCP支援企業の事例にあります。営業の記録でも入れる場所は同じで、要約の下書きをAIが作り人が直す形にすると入力の負担が下がります。

中小企業側でAIが使われなくなる理由も、ここと重なります。2026年版中小企業白書では、省力化投資に取り組みながらAIを業務で活用していない事業者の理由は「活用する業務がイメージできていない」が63.4%で最多でした(中小企業庁「2026年版中小企業白書」第2部第2章第2節・第2-2-92図。2025年11〜12月実施の帝国データバンク調査に基づく)。業務のイメージがないまま入れるから使われなくなるのであって、記録と優先順位付けという具体の業務が先に決まっていれば道具は後から選べます。同白書がITツールの効果を高めた取組として挙げるのも「現場からの意見収集」と「段階的な導入」で(同節・第2-2-97図)、最小構成から始める順番はこの結果と合います。AIに丸ごと任せるのではなく人の確認を挟むのが前提で、営業活動全体のどこを自動化すべきかは営業自動化の考え方で整理しています。

インサイドセールスの立ち上げに関するよくある質問

Q. 兼任1名では成果が出るまでに時間がかかりませんか?

最小構成の節に書いたとおり、最初の1か月の目的は受注ではなくリストと記録が回る状態を作ることです。成果の判定は「温めていた相手から商談化条件を満たす案件が出たか」で見ます。専任化の判断はその実績が出てからで、先に人を増やすと記録の型が固まる前に運用がばらつきます。

Q. CRMやSFAを先に入れたほうが早くありませんか?

最小構成の節で触れたとおり、CRMの導入率は4割に届かず、道具の前に記録のルールが要ります。スプレッドシートで1〜2か月回すと、入力が止まる項目と本当に見たい項目が分かります。その時点で選ぶツールは要件がはっきりしているので、乗り換えの手戻りも小さくなります。

Q. 訪問営業の担当者が「リストを渡されても動けない」と言うときはどうすればよいですか?

つまずきの節に書いた商談化条件の問題です。条件を兼任者だけで決めていないか確かめ、訪問営業と同じ席で「この状態なら訪問する」を記録の項目で決め直します。引き渡し時の項目を文書にすると、「まだ早い」と「放置された」の両方が減ります。

Q. インサイドセールスの立ち上げを外部に頼めますか?

頼めますが、リストの中身と商談化条件は自社でしか決められません。外部が担えるのは記録の型とルールの初版・メールの型・AIによる要約や優先順位付けの仕組みづくりまでです。外注できる仕事とできない仕事の線引きは新規事業の外注が失敗する5パターンに書きました。

SAIの視点:インサイドセールスが温めた相手に、商談で動くものを見せられるかで結果が分かれる

インサイドセールスの記録は、商談に同席する人の手元に渡って初めて価値が出ます。「誰に・いつ・何を伝え・次はいつ」が残っていれば、初回商談で相手の困りごとを聞き直すところから始めずに済み、記録にある困りごとに合わせたデモを最初から見せられます。株式会社SAIの新規事業開発支援(GTM支援)で商談に同席するのはデモを作った本人なので、インサイドセールスが拾った相手の困りごとをその場でデモに当てて確かめられます。リストの整備と記録のルールをGTM全体の中で設計するのは、商談化条件と商談で見せるものと受注後の立ち上げが別々に作られると、どこか1か所で関係が切れるからです。

商談化条件がいま文書になっているか、なっていなければ訪問営業が「まだ早い」と言った直近の1件をお問い合わせに書いてください。