
Key Takeaways
- GTM戦略とは、製品・サービスを「誰に・どんな価値として・どのルートで・いくらで届けるか」を設計し実行する市場投入の設計図であり、製品開発と並行して作る。
- 最初の顧客は1社・1人の顔が浮かぶレベルまで絞り込み、価値は機能ではなく相手の業務の数字で語れるまで翻訳する。最初のターゲットは狭いほど強い。
- 日本政策金融公庫の2026年調査では、最近5年間に新事業へ取り組んだ中小企業は24.2%で、前向きに評価した企業は49.8%。人材の質と専門知識の不足、販売先の確保が主な問題点として挙がった。
- 日本企業が陥りがちな罠は「作ってから売り方を考える」「営業と開発の分断」「導入後の放置」の3つ。GTMは最初の顧客に売れるかを確かめてから作り込む。
- 米国では技術がわかる人材が商談に同席し、その場でデモを組んで検証を回す「GTMエンジニア」という職種が広がっている。SAIも同じ進め方で新規事業に伴走する。
GTM戦略とは、新しい製品やサービスを「誰に・どんな価値として・どのルートで・いくらで届けるか」を決め、市場に投入して広げていくための計画です。
「良いものを作ったのに、売れない」——新規事業の相談で最も多く聞く言葉は、製品の出来ではなく届け方の話です。GTM戦略の解説は世の中に多くありますが、営業を社長が兼ねる規模の会社で各ステップのどこが詰まるかまでは書かれていません。この記事は5つのステップごとに中小企業がつまずく点を挙げ、最初の1社に売れる状態を作るための順番を渡します。
GTM戦略は製品開発と並行して作る市場投入の設計図
マーケティング戦略と混同されがちですが、GTM戦略のほうが範囲は広いものです。Salesforceの公式ガイドはGTM戦略を新製品を買い手に届けるための段階的な計画と定義し、製品開発・営業・財務・マーケティング・カスタマーサービスの代表を集めて作るよう勧めています。マーケティング戦略はその中で需要をつくる一部だという位置づけです(Salesforce「Go to Market Strategy」、2025年9月4日更新)。HubSpotも同様に、新製品を市場に出して需要を生むための段階的な計画と定義しています(HubSpot「What is a Go-to-Market Strategy?」、2025年8月8日更新)。売る・作る・届けたあとに定着させるまでを、1枚の設計図として持つのがGTM戦略です。
中小企業にとってこの設計図が要る理由は、新事業の実態に表れています。日本政策金融公庫総合研究所の調査では、最近5年間に新事業へ取り組んだ中小企業は24.2%でした。取り組んだ企業のうち「成功」「どちらかといえば成功」と評価したのは合わせて49.8%で、「まだわからない」が43.7%を占めます(日本政策金融公庫「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」、2026年9月9日公表/中小企業編の調査時点は2026年6月中旬・有効回答4,755社)。4割超が成否を判断できないまま走っている状態で、何を確かめれば前に進めるかを決めるのがGTM戦略の役割です。
表は横にスクロールできます。
| ステップ | 決めること | 中小企業でつまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 1. 最初の顧客を絞る | 誰の・どの業務の・どんな痛みか | 既存顧客の全員に売ろうとして絞れない |
| 2. 価値を翻訳する | 機能ではなく相手の成果で語る | 作った本人が説明し、機能の話になる |
| 3. 売り方を決める | 直販・代理店・セルフサーブのどれか | 社長が営業を兼ね、届け方を選んでいない |
| 4. 動くデモで証明する | 相手の実務に合わせた試作 | 作れる人がおらず、スライドで説明する |
| 5. 売れる型を作る | 再現できるパターンの抽出 | 受注が代表の人脈に依存し、型にならない |
順番は上から下です。1が決まらないまま4のデモを作ると、誰にも刺さらない試作ができあがります。
GTM戦略を構築する5つのステップ
ステップ1:最初の顧客を1社・1人の顔が浮かぶまで絞り込む
「中小企業向け」のような粗い定義ではなく、**「誰の・どの業務の・どんな痛みを解決するのか」**を1社・1人の顔が浮かぶレベルまで絞り込みます。最初のターゲットは狭いほど強い——これはGTMの鉄則です。絞るのは会社だけではありません。HubSpotのガイドは購買に関わる役割として起案者・利用者・影響者・決定者・購買担当・承認者・門番の7つを挙げ、Gartnerの調査を引いて複雑なBtoB商材の購買グループは6〜10人の意思決定者で構成されると述べています(HubSpot「What is a Go-to-Market Strategy?」、2025年8月8日更新)。相手の会社の中で誰が困っていて誰が決めるかまで、最初の1社については書き出せる状態にします。
中小企業でつまずく点:既存顧客がいる会社ほど、絞り込みが甘くなります。日本政策金融公庫の調査で新事業の分野を選んだ理由の上位は「自社の技術・ノウハウを生かせるため」55.6%と「自社製品・サービスの提供ルートを生かせるため」42.6%で、既存の顧客と販路の延長で新事業が始まる会社が多数派です(日本政策金融公庫「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」、2026年9月9日公表)。それ自体は強みですが、「今の顧客なら誰でも」と広く当たると最初の成功例が積み上がりません。既存顧客の中から最も痛みの深い1社を選ぶ作業が、ステップ1です。アイデアの段階からこの1社を探す方法は、新規事業のアイデアの出し方で扱っています。
ステップ2:価値を「機能」ではなく「相手の成果」に翻訳する
「AIで業務を効率化」は価値ではありません。相手の業務の中で何がどう変わるかを、相手の言葉で言えるようになって初めて価値になります。HubSpotのガイドはこの翻訳のために、ペルソナ・課題・製品が与える価値・メッセージの4列で整理する「バリューマトリクス」を勧めています(HubSpot「What is a Go-to-Market Strategy?」、2025年8月8日更新)。列の順番が大事で、製品の機能から書き始めると相手の課題が後付けになります。
中小企業でつまずく点:作った本人が売る場面が多いことです。作り手は機能を語りたくなり、商談は「何ができるか」の説明で終わります。対策は、ステップ1で選んだ1社の担当者に「この作業は月に何時間かかっていますか」と聞いてその数字で価値を書き直すことです。自社で数字を作らず、相手の数字を借りるのがこつです。
ステップ3:単価と商談の複雑さで売り方・届け方を決める
直販か、代理店か、Webセルフサーブか。単価と商談の複雑さで最適なルートは変わります。HubSpotは販売の型を4つに分けています。低単価・大量販売向けのセルフサービスと、中程度の単価と複雑さに向くインサイドセールス。高単価で複雑な商材に向くフィールドセールスと、外部パートナーが売るチャネルモデルです(HubSpot「What is a Go-to-Market Strategy?」、2025年8月8日更新)。Salesforceのガイドも直販・セルフサービス・パートナー販売の3つを挙げ、買い手の購買の好みと製品の複雑さで選ぶよう勧めています(Salesforce「Go to Market Strategy」、2025年9月4日更新)。高単価で複雑な商材なら、営業に技術がわかる人を同席させる体制が海外では標準になりつつあります(後述)。
中小企業でつまずく点:売り方を「選ぶ」工程そのものが飛ばされることです。社長が営業を兼ねている会社では、届け方は自動的に社長の直販になります。日本政策金融公庫の調査では、新事業に取り組むうえでの問題点として「販売先や受注先の確保が難しい」を挙げた中小企業が24.5%でした(日本政策金融公庫「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」、2026年9月9日公表)。社長の人脈が尽きた先にどのルートで届けるかを、最初の受注の前に決めておきます。代理店に任せる場合は、ステップ2の翻訳が代理店の営業担当にも伝わる形になっているかが分かれ目です。
ステップ4:相手の実務に合わせた「動くデモ」で価値を証明する
BtoBの新規領域では、スライドより動くデモが何倍も雄弁です。相手の実データ・実業務に合わせたPoC(試作での価値実証)を高速で構築し、商談の場で「自社で使えるイメージ」を持ってもらうことが受注を大きく左右します。デモには課題再現・ビフォーアフター・その場カスタムの3つの型があり、見せる順番と段取りは営業デモの作り方と見せ方にまとめています。
中小企業でつまずく点:デモを作れる人が社内にいないことです。日本政策金融公庫の調査では、新事業の問題点の1位が「質的な人員の確保が難しい」43.0%で、2位が「製品・サービスの開発に必要な専門知識・ノウハウが不足している」34.4%でした。解決に向けて「技術面をサポートする提携企業を開拓した」企業は20.7%です(日本政策金融公庫「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」、2026年9月9日公表)。人が採れるまで待つと、商談はスライドの説明のまま進みます。生成AIとコーディングエージェントの普及で試作の工数は下がっており、外部のエンジニアと組んで最初のデモだけを作る選択肢も現実的になりました。
ステップ5:最初の10社前後から「売れる型」を抽出する
初期の受注は営業の腕やご縁で決まりがちです。重要なのはそこから再現可能なパターンを抽出し、営業資料・デモ・オンボーディングを標準化することです。パターンとは刺さる業種・響くメッセージ・つまずくポイントの3つを指します。Salesforceのガイドは測る指標として販売数・見込み客の反応と反論・商談期間の3つを挙げ、最後のステップに「顧客の定着と更新を助ける」を置いています(Salesforce「Go to Market Strategy」、2025年9月4日更新)。型ができて初めて、事業はスケールします。
中小企業でつまずく点:受注が代表の人脈に依存し、型になる前に止まることです。日本政策金融公庫の調査では、新事業が売上全体に占める割合を「0%超10%以下」と答えた中小企業が60.9%でした(日本政策金融公庫「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」、2026年9月9日公表)。最初の数社で得た学びを次の商談に使う仕組みがないと、この段階から抜けられません。商談ごとに「誰が・なぜ買ったか・どこで迷ったか」を1行ずつ記録することから始めます。
中小企業のGTMを止める3つの罠
罠1:「作ってから売り方を考える」
開発が完了してからマーケティングや営業を検討し始めるパターンです。GTMは製品開発と並行して設計するもの。むしろ「最初の顧客に売れるか」を確かめてから作り込むほうが、手戻りは圧倒的に少なくなります。開発だけを外部に切り出したときにこの罠が起きやすい理由は、新規事業の外注が失敗する5パターンで扱っています。
罠2:営業と開発の分断
営業は「技術の質問に答えられない」、開発は「顧客の顔が見えない」。この分断があると、商談で得た学びが製品に反映されず、製品の強みが商談で伝わりません。海外のAI企業が営業に技術者を同席させるのは、この分断を埋めるためです。
罠3:導入後の放置
契約がゴールになってしまい、顧客が使いこなせず解約——BtoBでよくある失敗パターンです。SalesforceがGTM戦略の最終ステップに「顧客の定着と更新を助ける」を置いているのは、届けたあとまでがGTMの範囲だからです(Salesforce「Go to Market Strategy」、2025年9月4日更新)。最初の導入(オンボーディング)にこそ、最も手厚いリソースを割くべきです。
海外では「技術がわかる人」がGTMを担いはじめている
米国のスタートアップでは、GTMエンジニアという職種が広がっています。技術がわかる人材が商談に同席し、その場でデモを組み、顧客の環境に合わせた検証を高速で回す——「売る」と「作る」の境界を溶かす動きです。
背景にあるのは、AIプロダクトの進化スピードです。製品が数週間単位で変わる時代には、「営業資料を作って研修して…」というリレー方式では間に合いません。技術と事業の両方を理解した少人数チームが、商談から導入までを一気通貫で担う方が速くて確実なのです。
GTM戦略に関するよくある質問
Q. 営業を社長が兼ねている中小企業でも、GTM戦略は必要ですか?
必要です。社長の人脈で最初の数社が取れてしまう会社ほど、その先で止まります。ステップ3で挙げた日本政策金融公庫の調査のとおり、販売先や受注先の確保は新事業の主な問題点に入っています。社長の人脈の外にどう届けるかを決めるのがGTM戦略で、分厚い資料は要りません。最初の1社と届け方を1枚に書ければ十分です。
Q. GTM戦略はいつ作りはじめるべきですか?
製品開発と同時です。作り終えてから売り方を考えるのが罠1で、最初の顧客に売れるかを確かめてから作り込むほうが手戻りは少なくなります。日本政策金融公庫の調査では新事業に取り組む直前の既存事業の状況として「安定しているが、将来に不安があった」が57.4%で最多でした(日本政策金融公庫「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」、2026年9月9日公表)。既存事業が回っているうちに小さく始めるほうが、検証に使える時間と資金に余裕があります。
Q. GTM戦略の構築を外部に頼めますか?
頼めますが、頼める範囲に線があります。戦略資料の作成だけを請け負う支援と、商談同席やデモ開発まで実行に入る支援では中身が違います。どちらの場合も、最初の顧客を誰にするかの意思決定と撤退の判断は自社に残ります。外注できない仕事の切り分けは、新規事業の外注が失敗する5パターンに整理しました。
Q. GTM戦略がうまくいっているかは、何で判断しますか?
最初の1社に売れたかどうかと、2社目以降に同じ売り方が通じたかどうかの2段階で見ます。Salesforceのガイドが挙げる販売数・見込み客の反応と反論・商談期間の3指標は、後者の再現性を測るものです。冒頭の節で挙げた日本政策金融公庫の調査でも、新事業の自己評価を「まだわからない」とする中小企業が目立ちました。判断できない状態が続くこと自体が問題で、始める前に「何社に・いつまでに」の判定基準を決めておきます。
SAIの視点:GTMは資料で決めず、商談の場でデモを見せて確かめる
株式会社SAIのGTM支援で最初に決めるのは、戦略資料の目次ではなく「最初の1社に、どのデモを見せるか」です。企画の壁打ちで「誰の・どんな困りごとを・どう解くか」を言語化したら、エンジニアが数週間の単位で動く試作を作り、想定顧客に実際に触ってもらいます。商談には技術がわかるメンバーが同席し、その場でデモを見せて技術の質問に答え、初回の導入(オンボーディング)まで一緒に走ります。ステップ1から5を資料の上で完成させるのではなく、商談の場で1周ずつ回して型にしていく進め方です。支援の範囲と進め方は新規事業開発支援に書いています。
立ち上げそのものを預けたい場合は、初期開発費用をいただかず成果連動のレベニューシェアで事業開発を請け負う自責〜JISEKI〜という形もあります(審査制)。
最初の打ち合わせでは「最初の1社は誰か」と「その会社に何を見せれば買うと判断できるか」の2つを議題にしています。この2つが決まれば、次の商談に持っていくデモの形まで一緒に描けます。まずはご相談ください。