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経営

新規事業の撤退基準|期限と母数を先に決めて数字で引く

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

新規事業の撤退基準|期限と母数を先に決めて数字で引く

Key Takeaways

  • 新規事業の撤退基準は期限と母数を先に決めて数字で引くもので、売上の額だけでは決まらない。
  • 期限は仮説をひとつ検証し切れる長さで決め、売上が立つまでの時間とは分けて置く。
  • 母数は顧客の反応の件数で持ち、判定日に何件を読むかを売上の額の目標より先に決める。
  • 撤退とピボットは別の判断で、仮説を変えるのがピボット・仮説が尽きたのが撤退である。
  • 撤退基準が機能しないのは決める人と判定日が無くサンクコストが判断を押し流すからで、当社の自責〜JISEKI〜は判断の根拠を想定顧客の反応と数字に固定する設計である。

「あと半年やらせてください」と事業責任者が言い、「いくら売れたら続けるのか」と経営者が返して会議が終わる場面があります。この会議に無いのは判定日の日付です。もう1つ無いのは、判定日に読む件数の線です。本記事が渡すのは期限・母数・判定日・次の仮説の有無の4枠の表と判定日から出る3つの分岐で、4枠の中身は当社の自責〜JISEKI〜のページに書いた約束から整理して示します。

本記事の一次情報は当社のサービス「自責〜JISEKI〜」のページに書いた設計で、審査の観点・ピボットの判断基準・契約の最短期間・作ったものの帰属の4つです。これは当社が顧客に対して置いた約束であり、事業の実績や成果の数値ではありません。外部の記述は経済産業省・IPA・中小企業庁・内閣官房の文書を2026年10月4日に読んだ範囲に限り、IPAのウェブページの記述は同日時点のものです。

新規事業の撤退基準とは、始める前に決める「いつ・何件で・誰が」止めるかの約束で、売上の額だけでは決まらない

新規事業の撤退基準とは、事業を始める前に決めておく「いつ・何件で・誰が」止めるかの約束です。売上の額は結果として後から出る数字で、それだけでは判定する日も読む件数も決まりません。期限(いつ読むか)・母数(何件を読むか)・判定日(誰がどの日に読むか)・次の仮説の有無(変える先があるか)の4枠を先に書いておくと、判定日に数字を読むだけで続けるか変えるか止めるかが決まります。

新規事業の撤退基準の見取り図。上段は左から右へ4つの枠が横に並び、期限(仮説をひとつ検証し切る日付)・母数(判定日に読む顧客の反応の件数の線)・判定日(読む日の日付と決める人の記名)・次の仮説の有無(届かなかったときに書き換える先)の順。中段は判定日から出る3つの分岐で、仮説を変える=ピボット(期限と母数を切り直して次の判定日へ)・仮説が尽きた=撤退(顧客の反応の記録と使い回せる部品を残す)・続ける(同じ仮説のまま次の判定日へ)。下段は対比の2枚のカード。左は「売上の額だけで決める」で赤字が見えてから検討が始まり判定する日と読む件数が無い。右は「期限・母数・判定日で決める」で始める前に日付と件数の線を書き、判定日に読むだけで決まる

図は4枠を左から右へ並べ、判定日から出る分岐を3つに分けたものです。分岐は仮説を変えるピボット・仮説が尽きた撤退・同じ仮説で続ける継続の3つで、どれに進むかは判定日に読んだ件数と次の仮説の有無で決まります。下の2枚のカードは、売上の額だけで決める形と期限・母数・判定日で決める形の対比です。4枠に書くことと空欄のときに起きることは次の表のとおりです。

表は横にスクロールできます。

枠 書くこと 空欄だと起きること
期限 仮説をひとつ検証し切る日付 予算の区切りが期限になり、何を確かめる期間か分からなくなる
母数 判定日に読む顧客の反応の件数の線 額の話に戻り、件数が見えなくなる
判定日 読む日の日付と、決める人の記名 会議のたびに続けるかどうかの議論が始まる
次の仮説の有無 届かなかったときに書き換える先 撤退とピボットの区別がつかず、期限の延長だけが残る

基準が無いまま事業が走ることは、国の文書にも書かれています。経済産業省の事業再編ガイドラインは、同省の企業アンケートで事業撤退・売却を進める上での課題として「基準がない」「検討プロセスが明確になっていない」「規模が縮小することへの抵抗感」が挙げられたと記しています(経済産業省「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)(2020年7月31日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。同じ文書は、事業の切出しを検討する基準として「3期連続赤字」等を用いる例が少なからず見られると記しています。そのうえで、PL上の赤字になってから検討を始めるのでは遅く売却先を見つけることも困難になり、大きな痛みを伴う撤退や大幅縮小を余儀なくされるおそれがあると指摘しています(同ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。事業再編を扱う文書ですが、赤字が見えてから基準を探す順番の問題は新規事業でも同じです。

売上の額だけで決めないのは、額が結果だからです。額は期限と母数と判定日の上に乗せて初めて判定の材料になります。次の節から、4枠を書く順番に沿って1つずつ埋めます。

期限は仮説をひとつ検証し切れる長さで決め、売上が立つまでの時間とは分ける

期限は事業の仮説をひとつ検証し切れる長さで決めます。「半年」「1年」という数字が先に出ると期限は予算の区切りに合わせた日付になり、何を確かめる期間なのかが抜けます。仮説とは「この相手がこの困りごとにこの形で払う」という1行で、期限はこの1行を顧客の反応で確かめ終える日です。仮説の1行の作り方はGTM戦略の5つのステップに書いた最初の顧客を絞る工程と同じで、相手の顔が浮かぶまで絞るほど期限は短く置けます。

売上が立つまでの時間はこれとは別に置きます。当社の自責〜JISEKI〜では契約期間を最短6か月にしていて、理由はページに書いたとおり「売上が動きはじめるまでには時間がかかるため、数か月で切り上げると事業の芽ごと落とすことになる」からです(自責〜JISEKI〜)。この期間は売上が立つまでの時間の下限で、仮説を検証する期限はこの中に複数置きます。ひとつの仮説の検証が契約期間より早く終われば、残りの期間は次の仮説に使えます。

期限を短く切り過ぎることにも長く延ばし過ぎることにも、国の文書は注意を促しています。事業再編ガイドラインは「両利きの経営」の観点から、新規の成長事業の資本収益性は過去の実績や単年度で評価するのではなく、事業のライフサイクルを踏まえた中長期的な時間軸で評価することが重要だとしています。同時に、新規事業への成長投資は不確実性が高く投資回収までの期間の管理が重要で、当初想定した回収期間の長期化が最も注意すべき課題だとも書いています(事業再編ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。脚注では、新規事業の資本コスト(投じた資金に対して求められる収益率)は高い事業リスクを反映して既存事業より高くなる傾向にあることを認識した上で、事業の成長性を継続的に確認する必要があるとしています(同ガイドライン脚注93/2026年10月4日閲覧)。単年度で切らないことと回収期間の長期化を見逃さないことは矛盾せず、両方を満たすのが仮説ごとの期限です。

中小企業の計画の時間軸も見ておきます。2025年版中小企業白書では約5割の事業者が経営計画を策定しており、策定している事業者の計画期間は3年以内が過半数を占め、「5年超」を見据える事業者は1割程度です(中小企業庁「2025年版 中小企業白書(HTML版)第2部第1章第1節 経営戦略」/2026年10月4日閲覧)。3年以内の計画の中に新規事業を置くなら、仮説の期限はその中でさらに短く刻むことになります。計画の期間がそのまま撤退の期限になっている事業計画は、期限の枠が空欄のまま走っている状態です。

母数は顧客の反応の件数で持ち、売上の額の目標より先に決める

母数は顧客の反応の件数で持ちます。反応とは商談に応じた数・試用を始めた数・継続を選んだ数のように、仮説の1行に対して相手が動いた回数です。売上の額は反応の積み重ねの結果なので、額の目標を先に置くと判定日に「あとどれだけで届く」という話になり件数が見えなくなります。母数を先に決めるとは、判定日に何件を読めば結論を出してよいかの線を引くことです。

線の引き方は、判定できる最小の件数を仮説ごとに決めることです。件数が線に届かなければ結論は撤退でも継続でもなく判定保留で、次の判定日を書きます。この考え方は当社が自社サイトの検索流入の判定で使っている決めごとと同じで、当社は7日窓で表示が10件に届かない語は監視のみとし判定は改修日から10日以降に28日の窓同士で比べると決めています。母数の統計的な説明と保留の書き方はPoCの評価項目の記事に書いたので、ここでは繰り返しません。

何を数えるかで迷うときは、自社で数えられるものに限ります。2025年版中小企業白書の図では、経営戦略策定や新規事業の検討で最も重視する外部環境として「競合他社の特徴・動向」の回答割合が最も高く、「特に外部環境は重視していない」と答える事業者も一定数あります(2025年版 中小企業白書 第2部第1章第1節/2026年10月4日閲覧)。競合の動きは判断の材料にはなりますが、自社で毎週数えられる数字ではありません。母数に置くのは、自社の提案に対して顧客が動いた件数です。

数えた件数を決めた日に読む仕組みは、国の自己診断指標の使い方にも見られます。DX推進指標は経済産業省が2019年7月に取りまとめた自己診断指標で、デジタルガバナンス・コード3.0に基づく設問の追加・見直しにより2026年2月に改訂されました。ガイダンスによると定量指標は全項目が任意回答で、自社に必要な定量指標を特定して現状を把握し、3年後の数値目標を立てて進捗管理を行う活用方法が想定されています(経済産業省・IPA「『DX推進指標』のガイダンス(2026年8月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。IPAの案内ページは活用法「進捗を管理する」で、定期的に振り返りを行ってアクションの達成度を評価すること、診断は年次で継続しより短期のサイクルで確認したい指標はマネジメントサイクルに組み込むことを勧めています(IPA「DX推進指標のご案内」/2026年10月4日時点の記載)。新規事業の母数は年次では遅いので、短期のサイクルの側に置いて判定日ごとに読みます。

国の研究開発プロジェクトでも、採択時に定量の目標を定める方針が示されています。経済産業省の研究開発改革ワーキンググループの最終取りまとめは、事業採択時からあらかじめ定量的な中間・最終目標(成果判定の基準となる定量的な社会的インパクトなど)を定め、事業開始から数年後のステージゲート審査・終了時審査で達成レベルや早期の社会実装の状況を評価する方針を示しました(経済産業省 産業構造審議会 産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会 研究開発改革ワーキンググループ「研究開発改革WG最終取りまとめ(2022年3月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。目標を後から決めると達成の基準が動くので、母数の線は始める前に引きます。

撤退とピボットは別の判断で、仮説を変えるのがピボット・仮説が尽きたのが撤退である

撤退とピボットは別の判断です。ピボット(方向転換)は仮説の1行のどこかを書き換えて次の判定日を置くことで、撤退は書き換える先の仮説が尽きたときに事業を閉じることです。判定日に件数が線に届かなかったとき、次に試す仮説が書けるならピボットで書けないなら撤退です。4枠の最後に「次の仮説の有無」を置いているのはこのためで、この枠が空欄だと判定日に撤退と延長の二択しか残りません。

当社のページには「捨てるのはコードではなく、間違った仮説のほうです」と書いています(自責〜JISEKI〜)。この1文はピボットの定義そのもので、捨てる単位を仮説に限ると作ったものは残ります。逆に、仮説を変えずに期限だけ延ばすのはピボットではなく判定の先送りです。期限を延ばすときは、延ばす理由になる新しい仮説か新しい母数の線が要ります。

始める前に中止の条件を決めて途中で見直す運用は、国の研究開発でも採られています。経済産業省とNEDOは同省が予算措置する研究開発プロジェクトについて、事業の開始段階(事前評価時)であらかじめ中止する場合の要件・指標と、ステージゲート方式(段階ごとに関門を置いて絞り込む方式)による絞り込みの考え方・通過数等を設定する方針を示しました。事業の中間段階(中間評価時)で絞り込みの考え方・通過数等を見直した上でステージゲートを実施し、ステージゲートの設計は全分野で画一的な基準ではなく技術分野ごとに評価項目を設定するとしています(令和5年度新規事業から段階的に実施。研究開発改革WG最終取りまとめ/2026年10月4日閲覧)。開始時に中止の要件を書くことと中間で見直すことの両方が入っており、新規事業の4枠も同じです。判定日に見直すのは母数の線と次の仮説であって、判定日そのものではありません。

ピボットを失敗と呼ばない考え方は、改訂版DX推進指標の設問にもあります。設問14(組織づくり)は、DXに投じる資金をコストではなく経営に必要な投資として位置づけ、リターンの大きさや確度を求めすぎずに挑戦を促す投資を行っているかを問います。回答のポイントには、DXでは不確実性を伴う取組も多いため短期的な収益性だけでなく中長期的な競争力強化や企業価値向上の観点から投資判断を行うことが重要だとあります。失敗の可能性も含めて検証や学習の機会を確保することで、新たな価値創出やイノベーションにつなげることができるとも書かれています(『DX推進指標』のガイダンス/2026年10月4日閲覧)。検証と学習の機会を確保するとは、判定日を置いて仮説を書き換えることです。

PoC(本番の前に小さく試す実証)の段階で止まっている案件を再起動するか撤退するかの決め方は、PoC止まりの原因と対策に書きました。本記事の4枠はPoCより手前の事業の単位で、PoCの判定日は事業の判定日の中に入れ子で置きます。

当社の自責〜JISEKI〜は審査で課題の実在を確かめてから始め、ピボットは想定顧客の反応と数字を根拠に毎回一緒に判断する

当社の新規事業開発サービス「自責〜JISEKI〜」は、審査を通った事業だけを引き受けます。審査で見るのは3つで、解こうとしている課題が実在するか・意思決定者が本気か・当社の技術で勝ち筋が作れるかです(自責〜JISEKI〜)。この3つは4枠の前段に当たります。課題が実在しなければ母数に置く顧客の反応が発生せず、意思決定者が関わらなければ判定日に決める人がいません。

ピボットの判断基準もページに書いています。方向転換の回数に上限は設けていませんが、理由が「なんとなく」では変えず想定顧客の反応や数字を根拠に続けるか変えるかを毎回一緒に判断します(同ページ)。ここでいう反応と数字が本記事の母数で、毎回一緒に判断する日が判定日です。回数に上限を置かない代わりに判断の根拠を件数に固定しているのが、当社の設計です。

契約期間は期限の節に書いた最短の期間で、事業の状況に合わせて相談すると書いています。終了したときに開発したコードやアカウントは両社に帰属し、どちらか一方の手元にしか残らない形にはせず、終了時の引き継ぎは始める前の契約であらかじめ決めます(同ページ)。撤退の判定日を先に決めるのと同じ理由で、終わり方も始める前に決めます。報酬は売上に連動する契約で受け取り、その契約で撤退条件をどう書くかはレベニューシェアの記事に条項名で整理しました。契約の条項の読み方は、法務や専門家にご確認ください。

責任の置き場についても書いておきます。当社は売上が立たなかった責任を当社が負うと公開していますが、これは金銭の返還を約束するものではありません。開発にかかる人と時間を当社が先に出すことと、走り続けることで責任を取るという意味です(同ページ)。ここに書いたことはすべて当社がページに置いた約束であって、事業の実績や成果ではありません。自社で事業を持ちながら伴走を頼む形は新規事業開発支援で受けており、4枠の書き方は同じです。

撤退基準が機能しないのは、決める人と判定日が無く、サンクコストが判断を押し流すからである

撤退基準が紙に書いてあっても機能しないのは、決める人と判定日が無いからです。基準が「売上が計画を大きく下回ったら」という文言で止まっていると、下回ったと誰がどの日に判断するかが決まらず会議のたびに議論が始まります。決める人は意思決定者の記名で書き、判定日はカレンダーの日付で書きます。

判断が遅れる構造は、国の文書が具体的に指摘しています。事業再編ガイドラインは、日本の上場企業では売上高や利益の絶対額など企業規模に連動する指標が経営目標・業績評価で重視されていると記しています。それが規模縮小につながる事業の切出しへの負のインセンティブとなり、継続的に赤字に陥るまで判断を遅らせているのではないかという指摘です(事業再編ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。同じ文書は、事業の切出しでは対象事業部門やOB等からの抵抗など社内のしがらみから経営陣に「現状維持のバイアス」がかかりやすく決断が遅れやすい(先送りされやすい)との指摘があるとして、社外取締役の積極的な関与を期待しています(同ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。規模の指標と現状維持のバイアスは、どちらも判定日が無いときに強く効きます。

もう1つの力がサンクコスト(埋没費用・すでに使ってしまい戻らない支出)です。当社のページには、新規事業がいちばん危ないのは間違った方向にお金と時間を積み上げた後で、使った分が惜しくて引き返せなくなるのは人の判断のクセだと書きました(自責〜JISEKI〜)。当社の設計はこの積み上げの順番を逆にした構造で、発注側に「ここまで払ったのに」が発生しないため引き返す判断を感情ではなく数字でできます(同ページ)。構造で消せないときは、判定日に読む数字を件数に固定して額の話を持ち込まないことが代わりになります。

計画を書いても運用が続かないことは、中小企業の調査にも出ています。2025年版中小企業白書では経営計画を策定していない理由として「時間的余裕がないため」が最も高く、次いで「事業環境変化が激しく、先が見通せないため」「必要性を感じないため」が続きます。運用の面では、「計画の達成に向けた行動」に比べ「計画の進捗管理」と「計画に対する実績の評価・計画の見直し」は「取り組んでいる」割合が比較的低いとされています(2025年版 中小企業白書 第2部第1章第1節/2026年10月4日閲覧)。さらに、計画の達成に向けた行動・進捗管理・実績の評価と見直しの全てに取り組んでいない事業者は「想定した効果は得られなかった」と回答する割合が特に高く、取り組むほど経営計画の評価が高まります。白書はここから、経営計画の効果を高めるには策定だけでなく進捗管理と計画の評価・見直しを行い、適宜環境に合わせた軌道修正を行うことが重要だと示唆しています(同白書/2026年10月4日閲覧)。撤退基準の判定日は、この進捗管理と見直しを日付で固定したものです。

見直しを続ける状態を段階で表した例もあります。改訂版DX推進指標では全設問共通の成熟度がレベル0(未着手)からレベル5までの6段階で、レベル4は「全社戦略に基づく不断の見直し・部門横断的な実施」と定義されています(『DX推進指標』のガイダンス/2026年10月4日閲覧)。不断の見直しを日付に落としたものが判定日で、判定日を置かない基準は見直しの段階に乗りません。

撤退のあとに残すものは、顧客の反応の記録と使い回せる部品である

撤退のあとに残すものは、顧客の反応の記録と使い回せる部品です。記録とは判定日ごとに読んだ件数と、届かなかった理由として顧客が口にした言葉です。部品とは作ったものの中で次の仮説にそのまま使える画面・データの型・商談の資料です。当社のページには「作ったものの多くは、次の仮説にそのまま使えます」と書いていて、撤退のときも同じことが当てはまります(自責〜JISEKI〜)。作ったものの帰属を始める前に決めておく理由もここにあり、終わったあとに部品を持ち出せる側が決まっていないと記録も部品も散逸します。

学びを残す仕組みは、改訂版DX推進指標の設問16(継続的かつ積極的に挑戦するマインドセット醸成の制度・仕組み)の回答ポイントにも書かれています。新たな取組への挑戦を後押しするとともに、挑戦から得られた経験や学びを組織の資産として蓄積することが重要だという記述です(『DX推進指標』のガイダンス/2026年10月4日閲覧)。撤退の記録は、この資産に当たります。

退出を事業の終わりではなく次の参入の条件として見る視点は、国の計画にもあります。スタートアップ育成5か年計画は、企業の参入率・退出率の平均(創造的破壊の指標)が高い国ほど一人当たり経済成長率が高いとし、日本の開業率5.1%・廃業率3.3%は米国(9.2%・8.5%)や英国(11.9%・10.5%)より低いと記しています(内閣官房 新しい資本主義実現会議(第13回・令和4年11月28日)「スタートアップ育成5か年計画(資料1)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。国全体の数字を1社の判断に直結させることはできませんが、退出の基準が無いことは参入の基準が無いことと同じ構造です。撤退で残した記録と部品は、次の仮説の最初の母数と最初の部品になります。

次の仮説をどこから探すかは新規事業のアイデアの出し方に4つの源泉として書きました。撤退で残した顧客の言葉は、その1つ目の「既存顧客の頼まれごと」に入ります。

新規事業の撤退基準についてよくある質問

Q. 撤退基準に売上の額を入れてはいけませんか?

入れてよいですが、額だけで決めないことが要点です。額は期限と母数と判定日の上に乗せる結果の数字で、額の線だけを置くと「あとどれだけで届く」という議論が判定日を押し流します。事業再編ガイドラインも、PL上の赤字になってから検討を始めるのでは遅いと書いています(事業再編ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。額を置くなら件数の線の後ろに置き、判定日に先に読むのは件数にします。

Q. 判定日に母数が線に届かなかったら撤退ですか?

撤退でも継続でもなく判定保留です。保留と書いた記録に次の判定日を添え、その日まで仮説を変えずに件数を数え続けます。保留が続くこと自体が、仮説の相手が少ないという情報です。そのときは次の仮説の有無の枠を見て、書けるならピボットに進みます。

Q. 撤退を決める人は誰にすべきですか?

事業の意思決定者です。担当者任せの体制だと途中で判断が止まるため、当社の審査では意思決定者が当事者として関わるかを見ています(自責〜JISEKI〜)。事業再編ガイドラインは経営陣に現状維持のバイアスがかかりやすいとして社外取締役の積極的な関与を期待しており(事業再編ガイドライン/2026年10月4日閲覧)、社外の目を判定日に入れる形も選べます。決める人の記名は、4枠の判定日の欄に一緒に書きます。

Q. ピボットの回数に上限を置くべきですか?

回数ではなく根拠に条件を置きます。当社の設計の節に書いたとおり、当社は回数に上限を置かず判断の根拠を想定顧客の反応と数字に固定しています(自責〜JISEKI〜)。ピボットのたびに期限と母数の線を切り直し、前の仮説の件数と次の仮説の件数を同じ列に並べないことが条件です。回数で区切ると、残り回数のほうが判断の材料になってしまいます。

SAIの視点:撤退の判定日を先に書けるのは、売れなかった責任の置き場を先に決めているからである

発注側が開発の人と時間を先に積み上げる構造では、判定日は使った分と向き合う日になります。当社の自責〜JISEKI〜は責任の中身を先に負担することと走り続けることだと公開し、先に出す側に当社が立っています(自責〜JISEKI〜)。この順番のため発注側には使った分が無く、判定日に読むのは責任ではなく件数になる設計です。

株式会社SAIのキャラクターが、判定日に赤い丸を付けた壁のカレンダーを手で示しながら期限・母数・判定日・次の仮説の有無の4つの確認欄を書いたノートを開いて持ち、机の上には顧客の反応を数える赤と青の駒を入れた瓶が置かれているイラスト

手元の事業計画の中で、期限・母数・判定日・次の仮説の有無の4枠のうち空欄はどれでしょうか。確かめていただくのは判定日の欄で、日付と決める人の記名が入っているかを見ます。額の目標の有無はここでは見ません。

空欄だった枠の名前と事業の仮説の1行を、お問い合わせに書いて送ってください。空欄の枠が分かれば、最初の会話はその枠に何を書くかの話になります。

自責〜JISEKI〜の審査では課題の実在と意思決定者の関与を見ており、本記事の4枠の前段に当たります。自社で事業を持ちながら進める場合の入口は新規事業開発支援です。どちらでも、判定日に読むのは額ではなく件数だという前提は変えません。

出典と確認日

外部の出典はいずれも2026年10月4日閲覧。IPAのウェブページの記述は同日時点のもので、更新される前提で読む。当社の一次情報は自責〜JISEKI〜のページに書いたサービスの設計(審査の観点・ピボットの判断基準・契約の最短期間・作ったものの帰属)で、事業の実績・件数・成果ではない。検索流入の判定の決めごとはAI導入の効果測定の記事に書いた当社の運用値を再利用した。