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株式会社SAI
業務改善

AI社内研修のやり方|教材は自社の業務文書から作る

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

AI社内研修のやり方|教材は自社の業務文書から作る

Key Takeaways

  • AI社内研修のやり方で先に決めるのは受講後に使う業務で、教材は自社の業務文書から作るので研修会社の一般教材ではなく受講者が毎週触る議事録や問い合わせメールが元になる。
  • ダミーデータは実データの項目の並びと文の形だけを写し、氏名・会社名・日付は架空に置き換えて個人情報と顧客名を入れずに作る。
  • 研修の構成は入れない情報の線引き・業務の下書き・人の確認点の順で、IPAの導入・運用ガイドラインが利活用ガイドラインの記述例に挙げる入力してはいけない内容・プロンプトのコツ・生成物の取扱い方法の3項目に対応する(2026年10月4日閲覧)。
  • 当社の場合はウェブサイトの運用で記事の構成案と下書きと文章の検査をClaude Codeに任せて公開と題名は人が決めており、研修教材では進行表と演習の手順書の下書きを機械に任せ配布と実施を人が決める形に置き換えられる。
  • 研修が定着しないのは教材が一般論で受講後に使う業務が決まっていないからで、研修後の計測は受講者数ではなく研修で扱った業務で人が確認した回数と直して出した回数で見る。

研修会社の提案書には例文が並び、自社の議事録と問い合わせメールは1行も出てきません。自社の文書を教材に変える手順と、顧客名の入った文書を練習用に直す手順は、提案書の外にあります。自社文書を選ぶところから研修後の計測までを、当社が記事の構成案と下書きと検査をAIに任せている工程の転用として順に書きます。

当社の記録はウェブサイトの運用でClaude Codeに記事の構成案・要約文やメールの下書き・文章の検査を任せている2026年6月から10月の運用記録で、研修の効果を測った数値ではありません。BCP(事業継続計画)支援企業の事例は公開している事例ページの範囲で定性的にだけ触れ、受講者の数や期間は書きません。外部の引用はIPA・個人情報保護委員会・総務省・経済産業省の公開文書を2026年10月4日に読んだ範囲で、IPAの導入・運用ガイドラインは中核人材育成プログラムの卒業プロジェクトとして公開された文書です。研修の前後で誰が何をするかの設計5原則はAI研修の設計の記事に書いたので、この記事は教材を自社文書から作る手順に絞ります。

AI社内研修のやり方とは、教材を自社の業務文書から作り、受講後に使う業務を先に決めて設計する進め方である

AI社内研修のやり方とは、教材を自社の業務文書から作り、受講後に使う業務を先に決めて設計する進め方です。研修会社の一般教材は生成AIの仕組みと注意点を教えますが、受講者が翌週に開く画面には自社の議事録や問い合わせメールが並びます。教材をその文書から作れば、研修の演習と翌週の作業が同じ画面になります。

AI社内研修の設計の流れの見取り図。上段は左から右へ6つの箱を矢印でつないだ流れで、自社文書を選ぶ(受講者が毎週触る文書)・ダミーデータを作る(形だけを写し、氏名・会社名・日付は架空に)・入れない情報の線引き(鍵・顧客名・未公開の案件条件)・業務の下書き(ダミーデータで下書きを作らせる)・人の確認点(外に出す直前に人が見る)・計測(人が確認した回数)の順。下段に2枚のカードがあり、左は一般教材の研修で、教材の例文は他社の文書・受講後に使う業務が決まっていない・翌週に開く画面と演習の画面が違う。右は自社文書の研修で、教材は自社の文書の形(ダミーデータ)・受講後に使う業務が決まっている・翌週に開く画面と演習の画面が同じ。2枚のカードの下に、分かれ目は受講後に使う業務が決まっているかという一文がある

図は上段に研修設計の流れを6つの枠で、下段に一般教材の研修と自社文書の研修の対比を置いたものです。上段は自社文書を選ぶところから始まり、ダミーデータ・線引き・下書き・確認点を経て計測で終わります。下段の分かれ目は教材の出来ではなく、受講後に使う業務が決まっているかの一点です。以下の節は上段の枠の順に進みます。

研修の中身を導入の後で考えるものと見なさない点は、IPAが公開したテキスト生成AIの導入・運用ガイドラインと同じです。同ガイドラインは導入・運用のプロセスを示し、要件定義(Plan)の段階で利用ポリシーとユーザへの教育内容を検討するとしています。研修内容は導入後に足すものではなく、要件定義の一部に置かれています。対象読者はAI事業者ガイドライン(IPAが参照したのは第1版)の「AI利用者」のうち、組織が管理する生成AIの導入・運用・管理を行う担当者です(IPA 産業サイバーセキュリティセンター 中核人材育成プログラム7期生(卒業プロジェクト)「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。総務や推進担当が研修を組む立場は、この担当者に当たります。

総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)は共通の指針「教育・リテラシー」で、各主体は主体内のAIに関わる者がAIの正しい理解と社会的に正しい利用ができる知識・リテラシー・倫理感を持つために必要な教育を行うことが期待されるとしています。同じ項目には、生成AIの活用拡大でAIと人間の作業の棲み分けが変わると想定されるため新たな働き方ができるよう教育・リスキリング等を検討するという記述もあります(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。作業の棲み分けは業務ごとに違うので、教材もその業務の文書から作ることになります。

教材の元は一般の解説ではなく、受講者が毎週触る自社の文書である

教材の元は、受講者が毎週触る自社の文書です。議事録・問い合わせメール・日報・手順書のように、今週も来週も同じ形で発生する文書を選びます。選ぶ基準は3つで、毎週発生すること・入力と出力の形が決まっていること・人が見てから外に出す手順がすでにあることです。3つ目が欠けている文書は確認点を置く場所が無いので、教材の候補から外します。

IPAのガイドラインはユーザへの教育方法として、利活用ガイドラインの普及・効果的なプロンプトの共有・生成AI活用文化の醸成の3つを挙げています。文化の醸成の例として示されているのは、日報作成に生成AIを利用するなど日常業務の一部に生成AIを取り入れることです(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。教材の題材を毎週の文書から選ぶのは、この例と同じ向きです。日報は研修室で初めて見る文書ではなく、翌週も書く文書だからです。

同ガイドラインは、有志を集めて活用方法を探り共有するチームの設立と、ユーザが実際に使いながらプロンプトを共有し合える環境の提供を使用促進の有効な手段としています(同ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。研修の演習で作った指示文を共有の置き場に残すところまでを研修の中に入れると、この環境が研修と同時にできます。置き場は新しい仕組みでなくてよく、すでにある共有フォルダかチャットの固定投稿で足ります。

総務省の令和8年版情報通信白書の2025年度企業向け調査(日本・米国・ドイツ・中国)では、生成AI活用による業務変革等の環境整備について日本で最も回答割合が高かったのは「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」で、次いで「生成AI活用検討に向けた予算や人員が確保されている」でした(総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部 第2章 第1節 企業におけるAI利用の現状」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。最多の項目が学ぶ環境である以上、問いは教材に移ります。

生成AIの仕組みと注意点の層の位置づけは前掲の設計の記事に書いたので、ここでは再掲しません。この記事が扱うのは、その上に乗る自社の文書の層だけです。

ダミーデータは、実データの形だけを写して個人情報と顧客名を入れずに作る

ダミーデータは、実データの形だけを写して作ります。形とは項目の並びと文の長さと書き方の癖のことで、中身の名前と日付と数値は架空に置き換えます。問い合わせメールなら差出人・会社名・担当者名を架空にし、問いの種類(納期の確認・仕様の質問・書類の再発行依頼)は実際に来るものを残します。議事録なら出席者を役職名だけにし、議題と決定事項の書き方は実物のまま残します。

作り方は4つの手順です。

  1. 実物を数通選び、項目名だけを抜き出して1枚の表にする
  2. 項目ごとに「残す」「置き換える」「消す」のどれかを決める
  3. 置き換えた値が実在の会社や人と重ならないかを確かめる
  4. 作ったダミーを実物の隣に置き、その業務の担当者が自社の文書に見えるかを読む

表は横にスクロールできます。

項目 残す(形) 置き換える(中身) 消す
差出人・宛先 役職名と部署名 氏名・会社名を架空に メールアドレス・電話番号
日付・期限 相対表記(翌週・月末) 具体的な日付を架空に 契約や案件を特定できる日付
本文 問いの種類・文の長さ・書き方の癖 商品名や案件名を一般名詞に 添付ファイル・署名の連絡先
数値の欄 桁数と単位 架空の値に 実在の値そのもの

4つ目の手順が抜けると、ダミーは正しくても演習が他社の文書に見えます。担当者が自社の文書に見えると言えるまで形を直すと、翌週の作業との距離がいちばん短くなります。

ダミーにする理由は、研修の演習で入力する内容を実データの入力制限から切り離すためです。IPAのガイドラインは、入力したプロンプトが学習データとして利用される可能性を理由に、著作権で保護された情報・個人情報・組織の機密情報の3種をユーザによる入力の制限が推奨される情報として挙げています(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。演習はこの3種を含まない文書で行い、実データは会社の契約と線引きの下で使う段になって初めて入力します。

個人情報が入る文書を教材にするなら、ダミー化は前提になります。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合は特定された利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるとし、提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。研修の演習がその利用目的の範囲に入るかは文書ごとの判断になるので、演習をダミーで行えばこの判断を演習の前に済ませる必要がなくなります。自社の文書にどこまで個人情報が含まれるかの判断は、法務や専門家に確認してください。

研修の構成は、入れない情報の線引きから始めて業務の下書きと人の確認点へ進む

研修の構成は、入れない情報の線引きから始めて業務の下書きに進み、人の確認点で締める順です。順番を逆にして下書きの面白さから入ると、線引きの回は注意事項の読み上げになり、受講者は演習で覚えた操作を実データにそのまま使います。線引きが先にあると、下書きの回で何を入力してよいかが受講者の手元で決まっています。

IPAのガイドラインは利活用ガイドラインの記述内容の例として、入力してはいけない内容・目的の出力を生成させるプロンプトのコツ・生成物の取扱い方法の3つを示しています(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。研修の3つの回はこの3項目に対応します。線引きの回が入力してはいけない内容・下書きの回がプロンプトのコツ・確認点の回が生成物の取扱い方法に当たります。利活用ガイドラインの骨格をそのまま研修の構成に使うと、研修の資料とルールの文書が同じ章立てになります。

線引きの回で配るのは、ルールの全文ではなく受講者が演習で触る文書の項目ごとに入れてよいか入れないかを付けた1枚です。当社の線引きは鍵・顧客名・未公開の案件条件の3つで、文書を集める前に決めています(社内ナレッジの生成AI活用の記事)。入力してよい情報を入力禁止・条件付き・自由の3段に分ける社内ルールの作り方は生成AIの社内利用ルールに書きました。研修で使うのはその3段を自社の文書の項目に当てた表で、前節のダミーデータの表の「消す」列と「置き換える」列がそのまま入れない側になります。

AI事業者ガイドライン第1.2版はAI利用者の重要な事項として、個人情報を不適切に入力しないよう注意を払うこと(U-4)と機密情報等を不適切に入力しないよう注意を払うこと(U-5)を挙げ、より効果的なAI利用のために必要な知見習得も期待されるとしています(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。線引きの回がこの2つの事項に、下書きの回が知見習得に対応します。白書がヒアリングしたAI活用先進企業も、生成AIによる利用の裾野拡大を受けて利用ポリシーやガイドライン整備と評価スキームの仕組みづくりを進め、生成AIと社内データや社内システムとの連携が普及する中でデータへのアクセス権限をより慎重に設定する必要が出ているとしています(総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部 第2章 第1節 企業におけるAI利用の現状」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。研修の演習でダミーを使うのは、アクセス権限の設計が終わる前に受講者の手元に実データを渡さないためでもあります。

業務の下書きの回は、選んだ業務でダミーデータを入力して下書きを作らせ、受講者が自分の言葉で指示文を直す時間です。講師が見せる操作は短く、受講者が直す時間を長く取ります。指示文には、どの業務の・どの工程で・何を入れて・出力の何を見るかを添えて共有の置き場に残します。持ち帰る指示文の考え方は前掲の設計の記事と同じで、この記事で足すのは入力がダミーであることと出力の見る場所を次の回で決めることの2点です。

人の確認点の回は、出力を外に出す前にどこで誰が見るかを決める回です。IPAのガイドラインは、ハルシネーション(根拠のない回答)はRAG(文書を検索して読ませる仕組み)等で軽減できても完全に解消することはできないため、重ねてユーザに周知することが重要だとしています(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。個人情報保護委員会も、生成AIサービスの応答結果は確率的な相関関係に基づいて生成されるため不正確な内容が含まれることがあり、不正確な個人情報が含まれるリスクを踏まえて判断するよう注意喚起しています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。確認点は注意事項として読み上げるものではなく、業務の手順のどこに置くかを決めて初めて研修の成果物になります。当社の確認点は公開・送信・改題・支払いの直前の4か所で、記事の下書きがどれだけ整っていても公開の操作は人が行います(Claude Codeの業務効率化の記事)。研修で扱う業務にも、外に出る直前の操作が1つはあります。そこが確認点です。

当社の作り方は、構成案と下書きと検査をAIに任せ、確認と公開は人が行う形である

当社の作り方は、記事の構成案と要約文などの下書きと文章の検査をClaude Codeに任せ、公開するかどうかと題名は人が決める形です。これはウェブサイトの運用の記録で、研修教材を作った記録ではありません。工程の形が研修教材の作り方と同じなので、置き換えて書きます。

記事の構成案は、2026年9月4日に公開した記事から視点の違う構成案を複数並行して作らせ、審査して1本に統合する手順を取っています。文章の検査は公開前に2つのゲートを通す作業で、事実のゲートは出典の原文と本文の一致・創作した数値の有無・書かない語を見て、編集のゲートはリードの文数・見出しが単独で読めるか・同じ内容の重複を見ます。2026年10月3日に書いた記事3本では、ゲートが数値の取り違えと停止理由の書き方を指摘し、書き手が記録どおりに直しました。指摘を反映するかどうかは書き手が決めます。2026年9月17日には機械の検査だけを通した投稿本文を代表が読んで保留にし、自動生成の本文を止めました。別の日には画像の生成サービスの上限で画像が揃わず公開を止め、以後は画像が無い記事は公開しないと決めています。この経緯はClaude Codeの業務効率化の記事に表と一緒に載せています。

研修教材に置き換えると、次の表になります。

当社の工程 研修教材に置き換えると
視点の違う構成案を並行して作り審査して1本にする 研修の進行表を受講者の役割ごとに複数作らせ、推進担当が1本に決める
要約文やメールの下書きを作る 演習の手順書と配布資料の下書きを、ダミーデータを入力にして作らせる
事実と編集の2つのゲートで指摘を出す 教材に実名・実データ・線引きに触れる記述が残っていないかを機械で検査する
公開と題名は人が決める 教材の配布と研修の実施は推進担当が決める

左の列は機械に任せても戻せる作業で、右の列の最後の行だけが外に出る操作です。教材作りで機械に任せる範囲を広げても、配布の直前に人が読む場所を残せば教材の中の実名や実データはそこで止まります。前段の保留の記録が、人の確認点を外さない根拠です。

ダミーデータについて当社が記録として持っているのは作例ではなく、線引きのほうです。書いてはいけない事柄の種類は指示ファイルに書き、操作を許すか確認を挟むかは権限の設定で分けています(前掲の社内ナレッジの記事)。研修教材でも同じで、ダミーの作り方を手順書に書くだけでなく配布前の検査で実名を機械に探させ、最後に人が読みます。

研修を入れて終わりにしなかった例として、公開している事例を1件だけ挙げます。BCP支援企業では、一般論ではなく実際の業務で使えるプロンプトの型を用意してハンズオン形式で研修しました。ヒアリング議事録の自動要約やBCP文書のドラフト生成といった日常業務にAIを組み込み、スタッフ自身がAIの使い方を改善・拡張できる状態まで支援しました(事例:BCP支援企業のAI活用定着)。研修の題材が日常業務そのものだったことが、この記事の進め方の元になっています。

研修が定着しないのは、教材が一般論で受講後に使う業務が決まっていないからである

研修が定着しないのは、教材が一般論で受講後に使う業務が決まっていないからです。研修当日の反応が良くても、翌週に開く画面と研修で触った画面が違えば受講者は翻訳を自分で引き受けることになります。締切のある業務では、その翻訳は後回しになります。

研修を点で終わらせなかった組織の観察が、IPAのガイドラインにあります。組織ヒアリングでは、導入当初は「生成AIというものがどういうものか」「どのように活用すればよいか」といった基本的な質問が多く、導入から約1年が経過した時点では新しいサービスの導入要望やRAGの効果的な使い方など高度な質問に変化していました。同ガイドラインはその理由を、組織が実施した情報周知や教育でユーザの生成AIへの理解度が向上したためと見ています(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。1回の研修の効果ではなく周知と教育を続けた組織の観察で、研修を1回の行事にしない根拠になります。

ルールを配るところまでは進み、使ったあとを見る仕組みが薄いという分布も調査に出ています。総務省の同じ調査でリスク対策の取組状況を尋ねると、日本では「全社的な指針やガイドラインを整備している」が41.1%で最も高く、他の3か国では企画・導入段階の専門的な審査体制や導入後の定期的な評価・検証の回答が日本より高い傾向でした(総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部 第2章 第1節 企業におけるAI利用の現状」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。研修の構成を指針の配布だけで終える形は、この回答の分布と同じ偏りです。線引きの回だけがあって下書きの回と確認点の回が無い研修は、使ったあとを見る回を持ちません。

同じ調査で企業が生成AI活用に関して懸念するリスクは、日本では「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある」が最も高く、次いで「出力結果の精度に問題がある」「著作権等の権利を侵害する可能性がある」の順でした(同白書/2026年10月4日閲覧)。3つはそれぞれ線引きの回・確認点の回・ダミーデータの作り方に対応します。研修の構成がこの順で組まれていれば、懸念は教材の外の注意事項ではなく教材の中で扱われます。

向かないのは、毎週同じ形で発生する文書が無い部署と、出力を外に出す前に見る人を置けない業務です。前者は教材の元が無く、後者は確認点を置く場所がありません。前者は先に毎週の文書を1種類だけ決めることから、後者は見る人を決めることから始め、研修はその後に置きます。研修のあとに使われ続ける状態の作り方はAI導入が定着しない理由と対策の記事(関連記事に掲載)に、研修の前後で誰が何をするかの分担は前掲の設計の記事に書いたので、この記事では教材の側の原因だけを扱いました。

研修後の計測は、受講者数ではなく研修で扱った業務で人が確認した回数で見る

研修後の計測は、受講者数ではなく研修で扱った業務で人が確認した回数で見ます。受講者数は研修を実施した事実の記録で、業務が変わったかどうかは表しません。研修で扱った業務の出力を人が確認した回数と、そのうち直して出した回数を週ごとに数えると、使われているかと出力の質の両方が見えます。確認した回数が増えて直した回数が減る動きが、研修で扱った業務が回り始めた形です。

IPAのガイドラインはユーザ教育で期待される効果を、生成AI利用における倫理観およびセキュリティ意識の醸成と業務効率の向上の2点としています(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。前者を見る数字は確認点で止めた件数で、後者を見る数字は直さずに出せた回数です。どちらも研修で扱った業務の確認点に台帳を1枚置けば数えられ、満足度の調査を別に組む必要はありません。

同ガイドラインは運用担当者がユーザから得るべき情報として、導入効果・改善点・質問事項の3つを挙げています。質問の中には改善点につながる内容があるため、質問対応に留めずフィードバック情報として活用すべきだという記述です(同ガイドライン/2026年10月4日閲覧)。研修後に来た質問を件数と種類で記録すると、次の研修の教材を直す材料になります。質問が基本的な内容から業務の個別の内容に変わっていけば、前節で引いたIPAのヒアリングと同じ動きが自社でも起きていることになります。

母数と比較窓の決め方はAI導入の効果測定の記事に書いたので、ここでは何を数えるかだけを置きました。利用率と処理時間で測る設計は前掲の設計の記事にあり、この記事の回数はその手前に置く数字です。研修で扱った業務が1つなら、台帳は1枚で足ります。

AI社内研修のやり方についてよくある質問

Q. 研修会社の一般教材と自社文書の教材は、両方必要ですか?

層が違うので、両方あって役割が重なりません。生成AIの仕組みと注意点の層は既製の教材で足り、自社の文書への翻訳の層は自社でしか作れません。順番は線引きの回を自社の文書の項目で行い、仕組みの説明は既製の教材に任せて演習の時間を自社文書の下書きに振り向ける形です。既製の教材の位置づけは前掲の設計の記事に書きました。

Q. ダミーデータを作る時間が取れない場合は、実データを使ってよいですか?

ダミーにできない文書は、教材にしない選択のほうが先です。IPAのガイドラインは著作権で保護された情報・個人情報・組織の機密情報の3種を入力の制限が推奨される情報として挙げており(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)、演習でこの3種を扱うには会社の契約と線引きが先に要ります。時間が無いなら、社内の手順書や会議の進行表のように3種を含まない文書を題材に選び直すほうが早いです。

Q. 研修を組むのは情報システム部門でなければいけませんか?

役割が決まっていれば、総務や推進担当で成り立ちます。IPAのガイドラインは担当者を導入・運用・セキュリティの3つに分け、運用担当者の役割を安全な利活用のためのガイドライン・利用ポリシー・規定などを制定しユーザに周知を行うこととしています(IPA「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。担当者は役割の名前で、部門の名前ではありません。線引きの回だけはセキュリティを担当する人と一緒に表を作り、下書きと確認点の回は業務を分かる人が組みます。

Q. 受講者が個人で契約している生成AIで演習してよいですか?

演習で使うサービスは、会社が確認したものに揃えます。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用者に対し、提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し、入力する情報の内容等を踏まえて利用を判断するよう求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。確認を受講者それぞれに任せると線引きの回の意味が薄れるので、演習で使うサービスと入力してよい情報を会社側で決めてから研修に入ります。契約の種類ごとの扱いは前掲の社内利用ルールの記事に書いた線引きが使え、判断は法務や専門家に確認してください。

SAIの視点:実物の文書から名前と日付を消したとき、何が残るかを最初に見る

研修の相談で当社が最初に見るのは、実物の文書から名前と日付を消したときに何が残るかです。残った項目名と文の形がそのまま教材になり、残らない文書は中身のほとんどが顧客名や個別の条件なので教材に向きません。当社がサイト運用で記事の構成案と検査を機械に任せて公開を人に残しているのと同じ分け方を、研修の教材作りにも当てています。

株式会社SAIのキャラクターが、机に置いた業務文書の実物を1枚指差し、隣に名前と日付を消したダミーの文書を並べて見せているイラスト

AI導入支援では研修を単体では扱わず、業務の棚卸しの中で受講後に使う業務を1つ決め、その業務の文書からダミーデータと演習の手順書を一緒に作ります。研修の翌週に人が確認した回数を数える台帳の欄も、教材と一緒に決めます。教材の下書きは機械に作らせ、配布の前に実名と実データが残っていないかを人が読む工程を当社側にも置きます。

送っていただくのは、受講後に使う業務の名前と教材に使える自社文書の種類の2つです。議事録・問い合わせメール・日報のように名前だけで構いません。お問い合わせから送ってください。その前に1つだけ、研修の企画書に受講後に使う業務の名前が1行で書いてあるかを見てください。書いてなければ、毎週同じ形で発生している文書の名前を3つ書き出すところから一緒に始めます。

出典と確認日

いずれも2026年10月4日閲覧。当社の記録はウェブサイトの運用に使っているClaude Codeの運用記録(2026年6月から10月)から取り、研修の効果を測った数値は含みません。BCP支援企業の事例は公開している事例ページの記述の範囲です。