本文へスキップ
株式会社SAI
業務改善

AI導入のための業務の棚卸し|任せる作業と残す判断を仕分ける

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

AI導入のための業務の棚卸し|任せる作業と残す判断を仕分ける

Key Takeaways

  • AI導入のための業務の棚卸しは任せる作業と残す判断を仕分ける工程で、単位は部署や職種ではなく入力と出力が決まった作業に置く。
  • 仕分けの軸は失敗を戻せるか・人が確認する場所があるか・繰り返しがあるかの3つで、最初の1業務は繰り返しが多く失敗を戻せる作業から選ぶ。
  • 当社の場合はウェブサイト運用の7つの作業を任せた作業と人に残した判断の2列で持ち、残す側に並んだのは公開・送信・改題・支払いという操作の名前だった。
  • 公的な文書も同じ線にあり、IPAの導入・運用ガイドラインは構想策定で対象業務のスコープを定めるとし、令和8年版情報通信白書はタスクごとに補助か自律実行かを検討して業務プロセス全体を設計するとしている(2026年10月4日閲覧)。
  • 棚卸しが進まないのは業務一覧が目的や成果の単位で書かれているからで、作業の単位に割り直した表は導入後に判定の母数を数える台帳になる。

経営会議で配られた業務一覧に部署名と「効率化」の語は並んでいても、どの作業からAIに任せるかを答えられる行は見当たりません。部署名の行は入力と出力が書けないかぎり、任せるか残すかの判定列に進めません。作業名から繰り返しまでの6列に判定列を足した表を、当社の7つの作業で埋めた状態で置きます。

記入例に使う7つの作業は、2026年6月から10月3日までに当社が自社サイトを動かすために書き足してきた表から取りました。測ったのは回数と確認の場所で、効率化の数値ではありません。顧客の案件は1行も入れていません。公開している2つの導入事例は着手の順番だけを定性的に書き、期間や頻度や変化の数値は書きません。外部の記述はIPAの導入・運用ガイドライン・AI事業者ガイドライン第1.2版・IPAのDX推進指標のページ・令和8年版情報通信白書・Anthropicの記事で、IPAの文書は中核人材育成プログラムの卒業プロジェクトの成果物です(掲載ページの注記のとおりIPAと同センターの意見を代表するものではなく、いずれも2026年10月4日の閲覧分)。最初の業務の選び方そのものはAIエージェントの導入方法に書いたので、この記事は選ぶ前に書く表の作り方に絞ります。

AI導入のための業務の棚卸しとは、業務を作業と判断に分けて一覧にし、最初に任せる作業を選ぶ工程である

AI導入のための業務の棚卸しとは、いまある業務を「作業」と「判断」に分けて一覧にし、そのうち最初にAIへ任せる作業を選ぶ工程です。作業とは入力を受けて出力を作る手の動きで、判断とは出力を外に出すかどうかを決める人の行為です。棚卸し表は作業を1行にし、その出力を人が見る場所を同じ行の列に書き、右端に任せるか残すかの判定を1語で書きます。

図は棚卸し表の雛形です。列は作業名・入力・出力・失敗を戻せるか・人が確認する場所・繰り返しの6つで、右端に「任せる/残す」の判定列を置きます。記入例の3行は当社の運用の表から写したものです。下段の矢印図は、「営業部の効率化」のような部署単位の行を「議事録の要約」「メールの下書き」「文章の校正」のような作業単位の行へ割り直す変換です。

AI導入のための業務の棚卸し表の雛形。上段は左から作業名・入力・出力・失敗を戻せるか・人が確認する場所・繰り返しの6列と右端の任せる/残すの判定列を並べた表で、記入例が3行ある。投稿の下準備は入力が検索語と公開済みの記事・出力が候補の一覧と要約文・失敗は戻せる(一覧ファイルに留まる)・人が確認する場所は人に宛てた返信の送信・繰り返しは平日の朝で判定は任せる。日程調整の下書きは入力が名刺の情報と予定の空き・出力がメールの下書き・失敗は戻せる(下書きのまま)・人が確認する場所は送信・繰り返しは名刺を受け取ったときで判定は任せる。人に宛てた返信は入力が相手の投稿・出力が返信の文・失敗は戻せない(送った瞬間に相手に届く)・人が確認する場所は書く本人・繰り返しは候補が出るたびで判定は残す。下段は小さな矢印図で、営業部の効率化・総務の書類業務・経理業務の効率化という部署単位の一覧から議事録の要約・メールの下書き・文章の校正という作業単位の一覧へ割り直すことを示している。最下段に、記入例は当社のウェブサイト運用の記録で効率化の実績ではないという注記がある

以下の節は列の順ではなく、単位を決める・仕分けの軸を置く・最初の行を選ぶ・当社の記入例を読むという表を書く人の手順で進みます。

棚卸しを導入の最初の工程に置く考え方は、公的な文書と同じ線にあります。IPA産業サイバーセキュリティセンターの「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月)は、導入・運用プロセスの最初のフェーズ「構想策定」で生成AIの導入目的とスコープ(対象業務・対象ユーザ)を定めると規定しています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。対象業務を決めるには、業務が選べる単位で一覧になっていることが前提です。

総務省の「令和8年版 情報通信白書」はAI活用を前提とした業務変革では業務プロセス全体において「どのタスクはAIを人間の思考や判断の補助として用い、どのタスクはAIに自律的に実行させるべきか」を検討し、業務プロセス全体を設計する必要があるとしています。同じ節は、経営戦略に基づき経営層の判断でAI活用に優先的に取り組む業務領域を検討し、その業務領域の特性や人間が負うべき責任の範囲を見極めることが重要だとも書いています(総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節 4(2)AI導入・活用による効果創出のステップ」/2026年10月4日閲覧)。タスクごとに補助か自律実行かを決めるという記述は、棚卸し表の判定列と同じ問いです。白書が「人間が負うべき責任の範囲」と呼ぶものを、この記事では「人が確認する場所」の列に書きます。

棚卸しの単位は部署や職種ではなく、入力と出力が決まった作業である

棚卸しの単位は部署や職種ではなく、入力と出力が決まった作業です。「営業部の効率化」や「総務の書類業務」は単位が大きく、入力に何を読み出力に何を作るかが書けません。「商談のあとに議事録を要約して共有する」のように、入力(録音か手書きのメモ)と出力(共有する要約の文書)が1つずつ書ける大きさまで割ると、はじめて任せるか残すかを判定できます。

IPAのガイドラインは、テキスト生成AIを組織で有効に活用できる場面を「業務の効率化」「意思決定の補助」「新事業の提案補助」の3区分で整理しています。「業務の効率化」の具体例としては文章の校正・資料の要約・Excelマクロのコード生成等を挙げ、作業時間の短縮と品質向上に寄与すると期待されるとしています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。例に挙がっているのはどれも部署名ではなく作業名で、入力(校正する文章・要約する資料・マクロの仕様)と出力(校正済みの文章・要約・コード)が1つずつ決まっています。棚卸し表の作業名の列は、この粒度で書きます。図の下段に置いた議事録の要約・メールの下書き・文章の校正も、同じ粒度の例です。

令和8年版情報通信白書によると、日本企業の業務類型ごとの生成AI活用状況は「議事録・メール作成補助」が約7割で最も高く、「営業・販売」が約6割と「社内ヘルプデスク」が約5割で続きます。導入効果を実感する割合も「議事録・メール作成補助」が約7割で、他の類型より顕著に高かったとされています(総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(3)生成AIの業務利用状況」/2026年10月4日閲覧)。「議事録・メール作成補助」は作業の名前に近く、「営業・販売」や「社内ヘルプデスク」は部署の名前に近い類型です。作業の名前になっている類型ほど活用も効果の実感も答えやすいのだと、当社は読んでいます。

入力と出力が決まった作業を単位にする理由は、仕組みの作り方にもあります。Anthropicは2024年12月19日公開の記事で、LLM(大規模言語モデル)とツールが事前定義されたコードパスで編成されるシステムを「ワークフロー」、LLMが自らのプロセスとツール利用を動的に方向付けるシステムを「エージェント」と区別して定義しています。同じ記事は、ワークフローは明確に定義されたタスクに予測可能性と一貫性を与えるとしています(Anthropic「Building effective agents」/2026年10月4日閲覧)。入力と出力が書ける作業は「明確に定義されたタスク」で、事前に経路を決めたワークフローとして任せられます。

当社の表でも、7つの作業の名前はすべて作業名です。記事の構成案・文章の検査・構造化データの監査・検索データの集計・投稿の下準備・日程調整の下書き・動画の書き出しの7つで、「サイト運用」や「広報」という大きさの行はありません。入力は記事の下書き・公開ページのHTML・Search Consoleの実測・台本のように毎回同じ場所にあり、出力は構成案・指摘の一覧・台帳・下書き・動画ファイルのように1つに定まります(Claude Codeの業務効率化)。

仕分けの軸は、失敗を戻せるか・人が確認する場所があるか・繰り返しがあるかである

仕分けの軸は、失敗を戻せるか・人が確認する場所があるか・繰り返しがあるかの3つです。表の列で言えば「失敗を戻せるか」「人が確認する場所」「繰り返し」の3列で、入力と出力の2列が書けた行だけがこの3列へ進みます。失敗を戻せないか人が確認する場所が無い行は判定列を「残す」にし、繰り返しが無い行は任せる候補の後ろに回します。

失敗を戻せるかは、出力を捨てて作り直しても外に影響が出ないかで決めます。下書き・一覧・集計は捨てて作り直せますが、送信したメール・公開したページ・実行した支払いは戻せません。Anthropicの記事は、エージェントは必要なステップ数を予測できず固定の経路をハードコードできないオープンエンドな問題に使えるとしつつ、その自律性はコスト増と誤りが複合するリスクを伴うためサンドボックス環境での広範なテストと適切なガードレールを推奨しています(Anthropic「Building effective agents」/2026年10月4日閲覧)。誤りが複合するというのは、1つの作業の失敗が次の作業の入力になって広がることです。棚卸し表で入力の列に前の行の出力を書いた行は、前の行の失敗を受け取る位置にあります。戻せるかどうかはその行だけでなく、受け取る側の行まで見て書きます。

人が確認する場所があるかは、出力が外に出る直前に人が見る工程を置けるかで決めます。当社では公開・送信・改題・支払いの直前に1か所ずつ置いています。総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」第1.2版(令和8年3月31日公表)の第5部は、AI利用者がAI提供者の意図した範囲内で適正利用することで業務効率化や生産性・創造性向上の恩恵を受けられるとし、人間の判断を介在させることにより人間の尊厳及び自律を守りながら予期せぬ事故を防ぐことも可能になるとしています(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(令和8年3月31日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。

確認の場所を置くときの注意も、同じガイドラインにあります。共通の指針「公平性」は「人間の判断の介在」として、AIに単独で判断させるだけでなく適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討し、その人間の判断が自動化バイアスに左右されない対策を講じるべきとしています。自動化バイアスは人間の判断や意思決定において自動化されたシステムや技術への過度の信頼や依存が生じる現象と定義され、対策としてAIの評価や判断等を人間が承認する際には人間自身が承認する理由や根拠を独自に考えてから承認すべきこと等が提案されていると書かれています(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(令和8年3月31日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。「人が確認する場所」の列には、見る人の役職と見るものを書きます。「代表が公開前に本文を読む」のように、承認の理由を自分で考えられる形にするためです。確認する人が決まらない行は、任せる前に止まります。

繰り返しがあるかは、同じ入力の形で同じ出力を作る機会が1週間に何度あるかで決めます。繰り返しが多い作業ほど、任せたあとの出来栄えを見る機会も多く直す回数も確保できます。IPAのガイドラインは、初期段階でスコープ(対象ユーザ・実装機能)を絞ってスモールスタートとして導入することで対象部署やユーザ数・ユーザ1人当たりの利用頻度を検証する機会になるとしています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。利用頻度は繰り返しの列そのもので、棚卸しの段階で見積もった回数を導入後に実測と比べます。

Anthropicの同じ記事の付録は、エージェントが最も価値を出すのは会話と行動の両方を要して成功基準が明確でフィードバックループがあり、意味のある人間の監督を組み込めるタスクだとしています。コーディングエージェントが有効な理由として自動テストで検証可能であることを挙げつつ、広い要件との整合には人間のレビューが引き続き不可欠だとも書いています(Anthropic「Building effective agents」/2026年10月4日閲覧)。成功基準が明確であることは出力の列が1つに定まること、フィードバックループは繰り返しの列、人間の監督は人が確認する場所の列に当たります。

最初に任せる作業は、繰り返しが多く失敗を戻せる行から選ぶ

最初に任せる作業は、判定列が「任せる」になった行のうち繰り返しが多く失敗を戻せる行から選びます。並べ替えの軸は効果の大きさではなく、繰り返しの多さと戻しやすさです。効果の大きい作業は失敗の影響も大きく、出来栄えを見る回数が足りないまま続けるか止めるかの判断を迫られます。

表は横にスクロールできます。

見る順 列 最初の1業務に向く値 後ろに回す値
1 繰り返し 毎日か毎週 月に1回・不定期
2 失敗を戻せるか 戻せる(下書き・一覧・集計) 戻せない(送信・公開・支払い)
3 人が確認する場所 役職名と見るものが書けている 空欄・「様子を見る」
4 入力 毎回同じ場所と形式で手に入る 人の頭の中・口頭
5 出力 1つに定まり人が良し悪しを判断できる 複数に分かれる・良し悪しを決める人がいない

上から順に見て「後ろに回す値」に当たった行は、その段で候補から外します。DXは何から始めるかでは最初の1業務を「数字で追えて失敗しても止まらないもの」と書きました。数字で追えるかは繰り返しの列、失敗しても止まらないかは失敗を戻せるかの列で読みます。中小企業の生成AI業務自動化で最初の3業務を「渡す材料と間違いが見つかる場所」で並べたのも、入力の列と人が確認する場所の列を見たものです。

IPAのガイドラインは「スモールスタート」を少ないコストや時間で小さな規模から技術導入等を開始することと定義し、生成AIは技術革新の速度が速いため他のシステム開発と比べてスモールスタートの重要性が高いとしています。同ガイドラインの組織ヒアリング(2024年3月から5月実施)では導入はスモールスタートで実施される傾向が見られ、まず部門単位の先行利用やユーザを選定した導入を行い利用率や活用方法を確認したうえで全社展開を開始している組織が多かったと記録されています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。部門単位の先行利用も、部門の中では作業の単位で始まります。

道具の選び方も、単純な側から始めます。Anthropicは、LLMアプリケーション構築では可能な限り最も単純な解決策を見つけ必要なときだけ複雑さを増すことを推奨し、それはエージェント型システムをまったく作らないことを意味する場合もあるとしています。エージェントが適するのは、柔軟性とモデル主導の意思決定が大規模に必要なときだという区別です(Anthropic「Building effective agents」/2026年10月4日閲覧)。繰り返しが多く入力と出力が決まった作業は、前の節で引いたワークフローの側にあります。最初の1業務にエージェント型が要ることはまれです。

当社の2つの導入事例も、着手の順番は同じです。広告代理店の事例では、制作と運用の課題(制作に時間がかかる・SNS投稿の作成と予約が手作業で属人化している・レポート作成に工数がかかる)を先に洗い出しました。次に置いたのは構成や文章の下書きの自動生成と投稿の仕組み化という作業の単位の仕組みです。BCP支援企業の事例では資料作成とヒアリング整理が労働集約的でスタッフのスキル差が大きいという課題を洗い出し、業務に直結した研修を先に行ってから議事録の自動要約や文書のドラフト生成を日常業務に組み込みました。どちらも課題の洗い出しから作業の単位の仕組みを置く順で、BCP支援企業の事例ではスタッフが自分で改善できる状態まで伴走しています。期間や頻度や変化の数値はこの記事では書きません。

当社の棚卸し表は、任せた作業と人に残した判断を左右の列に分けて持っている

当社の棚卸し表は、ウェブサイト運用の7つの作業を左に任せた作業・右に人に残した判断として持っています。元の表はClaude Codeの業務効率化に載せた2列のものです。ここではその7つを棚卸し表の6列と判定列に書き直します。右の列にあった判断は送る・変える・足す・反映するという人の作業でもあるので、「残す」の行として別に立てます。

表は横にスクロールできます。

作業名 入力 出力 失敗を戻せるか 人が確認する場所 繰り返し 判定
記事の構成案 記事の題材と編集の規格 構成案 戻せる(下書きの段階) 公開と題名を人が決める 記事ごと 任せる
文章の検査 記事の下書きと出典 指摘の一覧 戻せる(反映は書き手が決める) 指摘を反映するかを書き手が見る 公開前に毎回 任せる
構造化データの監査 公開ページのHTMLと公式ドキュメント 問題の一覧と修正案 戻せる(本番反映の前で止まる) 会社の事実に触れる修正と本番反映を代表が見る 不定期 任せる
検索データの集計 Search Consoleの実測 台帳の記録と判定案 戻せる(判定案の段階で止まる) 表示のあるページの改題を代表が決める 判定日ごと 任せる
投稿の下準備 検索語と公開済みの記事 候補の一覧と要約文 戻せる(一覧ファイルに留まる) 人に宛てた返信の送信 平日の朝 任せる
日程調整の下書き 名刺の情報と予定の空き メールの下書き 戻せる(下書きのまま) 送信 名刺を受け取ったとき 任せる
動画の書き出し 台本と画の指定と事実の表 動画ファイルと確認用の一覧 戻せる(書き出し直せる) 公開と生成枠の追加を人が決める 動画ごと 任せる

右の列にあった判断を行として立てると、次の表になります。

表は横にスクロールできます。

作業名 入力 出力 失敗を戻せるか 人が確認する場所 繰り返し 判定
人に宛てた返信 相手の投稿 返信の文 戻せない(送った瞬間に相手に届く) 書く本人 候補が出るたび 残す
表示のあるページの改題 判定案と変更前の実測 新しい題名 戻せるが順位とクリックとAI検索の引用が同時に動く 代表 判定のたび 残す
生成枠の追加 上限で止まった知らせ 枠を足すか翌日に回すかの決定 戻せない(支払いに当たる) 人 上限に当たったとき 残す
本番への反映 修正済みのコード 公開中のサイトの更新 戻せるが公開の瞬間に外に出る 代表が自分で実行する 更新のたび 残す

2つの表を並べると、残すの行の作業名はすべて外に出す操作の名前で、任せるの行の作業名は集める・作る・検査する側の名前でした。本番への反映は2026年9月24日から26日の3回とも既定の仕組みが止めて代表が自分で実行した記録があり、表ではその事実をそのまま「残す」の行に書いています(AIエージェントの権限設計)。

表に1つ加えるなら、判定の理由を欄外に残すことです。IPAのガイドラインは導入・運用の前提事項の1つ「ドキュメンテーション」として、システムの設定内容とその設定を行った経緯を文書化して記録することが重要で、スモールスタートからのシステム更新時に組織の意思決定を円滑にするとしています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。「残す」にした理由が戻せないからなのか見る人が決まっていないからなのかは、次に表を見直すときの分岐になります。

棚卸しが進まないのは、業務一覧が目的や成果の単位で書かれていて作業の単位になっていないからである

棚卸しが進まないのは、手元の業務一覧が目的や成果の単位で書かれていて、作業の単位になっていないからです。「顧客対応の品質向上」「経理業務の効率化」という行は目的で、入力も出力も書けません。目的の行をどれだけ並べても判定列は埋まらず、会議は「どこから手を付けるか」で止まります。

目的を明確にすること自体は、導入の前提として公的な文書も求めています。IPAのガイドラインは導入目的を「生成AIを導入している企業が増えているから」などの曖昧な目的ではなく明確に定めるべきとし、導入目的の例として全社員対象の社内業務(文章作成・要約・プログラミング・アイデア出しなど)の効率化・チャットボットを利用した問い合せ窓口業務の効率化・RAG(社内文書を検索して答えに使う仕組み)を活用した社内情報検索の効率化の3つを挙げています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。目的の例の括弧の中には、文章作成・要約・プログラミングという作業名が入っています。目的と作業は上下の関係にあり、棚卸し表に書くのは下の段です。目的は表の題として1行で書き、行には作業だけを並べます。

目的や成熟度の単位で現状を見る道具は、別にあります。IPAはDX推進指標を、経営者や社内の関係者がDX推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気付きの機会を提供するものと説明しています(IPA「DX推進指標(IPA 社会・産業のデジタル変革)」/2026年10月4日閲覧)。自己診断では望ましい方向性に基づく設問について現在のレベルと3年後に目標とするレベルをレベル0からレベル5までの6段階で評価し、経営幹部・事業部門・DX部門・IT部門などの関係者が集まり議論しながら記入することが推奨されています(IPA「DX推進指標のご案内(IPA)」/2026年10月4日閲覧)。認識の共有とレベルの評価は組織の単位で行うもので、棚卸し表は作業の単位の道具です。

令和8年版情報通信白書の2025年度企業向け調査では、生成AI活用の方針について「積極的に活用する方針」と「活用する領域を限定して利用する方針」の合計が日本で68.9%(2024年度調査では49.7%)となり、調査した米国・ドイツ・中国より引き続き低かったとされています。企業規模別では大企業74.0%・中小企業58.1%です(総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(1)生成AIの活用方針等」/2026年10月4日閲覧)。方針は「領域を限定する」までは決めますが、領域は部署や業務群の単位です。方針の次に要るのが領域を作業に割る工程で、その工程を飛ばすと一覧は目的の単位のまま残ります。割り方は図の下段のとおりで、部署の人に毎週していることを聞いて1行ずつ書き出すだけです。

棚卸し表は、導入後に判定の母数を数える台帳になる

棚卸し表は、導入したあとに判定の母数を数える台帳になります。繰り返しの列に書いた回数が母数の上限で、人が確認する場所の列に書いた工程が「人が確認した回数」を数える場所です。表を作った時点で、効果を測る指標の置き場所も決まっています。

IPAのガイドラインは目標設定にあたり「定性的目標」と「定量的目標」をそれぞれ検討することが重要とし、特に定量的目標は効果測定の指標の1つになるため現実的な目標値を設定することを推奨しています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。現実的な目標値は、繰り返しの列の回数より大きくは置けません。週に数回しか発生しない作業で月に数十件の判定を約束する表は、作った日に無理が分かります。判定できる最小の件数の決め方と母数が足りないときの保留の書き方はAI導入の効果測定に書いたので、棚卸し表はその前段としてどの行の何を数えるかを決める台帳です。

表は1回書いて終わりではありません。IPAのガイドラインは構想策定から改善までをPDCAの1サイクルと定め、1周目を「スモールスタート」・2周目を「本番導入」・3周目以降をRAG導入のような「機能拡張」としてサイクルを何度も回す構成を示しています(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。周回ごとに判定列を書き直すのが表の使い方で、当社が2026年9月から10月に止めた3件でも動いたのは判定列だけでした。自動生成した投稿本文は公開する判断を止めて候補を集める作業の行を残し、解説スライド型の動画は本編の型として作る判断を止めて既存の動画を補足素材として残しました。画像待ちの記事は画像が無いまま公開する判断を止め、本文と図の制作の行はそのまま動かしています(AI導入の失敗事例)。

止めた行と残した行が表の上で分かれていたから、止めたあとも集める作業と記録は動き続けました。棚卸し表の判定列は、導入前に選ぶための欄であると同時に導入後に止める単位を決める欄です。

AI導入のための業務の棚卸しについてよくある質問

Q. 部署ごとの業務一覧しかない場合、どこから手を付ければよいですか?

部署名の1行を、その部署の人が毎週している作業に割ることから始めます。割り方は「誰が何を受け取って何を作っているか」を1行ずつ書くだけで、作業名・入力・出力の3列が埋まれば残りの3列は本人に聞いて埋まります。図の下段に置いた変換がこの工程で、部署の数ではなく作業の数が表の行数になります。

Q. 棚卸し表は誰が書くべきですか?

入力と出力の列はその作業をしている本人が書き、人が確認する場所と判定の列は業務の責任を持つ人が書きます。IPAのDX推進指標でも経営幹部・事業部門・DX部門・IT部門などの関係者が集まり議論しながら記入することが推奨されています(IPA「DX推進指標のご案内(IPA)」/2026年10月4日閲覧)。棚卸し表も1人で埋めると入力の列が想像になります。当社の表は書く人と確認する人が重なっていますが、分かれている会社では2人以上で埋めるのが前提です。

Q. 「残す」と判定した作業は、今後もAIに任せないということですか?

残すは今回の周回の判定で、固定ではありません。IPAのガイドラインは構想策定から改善までを何度も回すサイクルとして示しており(IPA 産業サイバーセキュリティセンター「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)、2周目に見直すのは入力の列と人が確認する場所の列です。確認する人が決まり戻せる形に変えられた行は、次の周回で任せる側に移せます。当社の表で残すに置いた改題も、改題の案を出すところまでは機械に任せ、変更前の実測を台帳に残してから代表が決める形にしています。

Q. 入力に顧客情報や機密情報が含まれる作業は、どう書きますか?

入力の列には文書の種類を書き、入れない情報の種類を表の欄外に決めます。AI事業者ガイドライン第1.2版の第5部はAI利用者の重要事項「セキュリティ対策の実施」として、AIシステム・サービスに機密情報等を不適切に入力することがないよう注意を払うことを求めています(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(令和8年3月31日)」(PDF)/2026年10月4日閲覧)。入力の列に「顧客の契約書」と書いてある行は、任せるか残すかの前に入れてよい形(匿名化した写しか項目名だけか)を決める行です。

SAIの視点:書き直して回数が書けなかったのは、繰り返しの列だった

当社が7つの作業を6列に書き直して回数が書けなかったのは、繰り返しの列でした。構造化データの監査は2026年9月25日に1回回しただけの作業で、判定は任せるでも繰り返しの欄に書けたのは回数ではなく「不定期」の一語でした。任せてよい作業と最初に任せる作業は別の問いだと、表のほうが先に示していました。

株式会社SAIのキャラクターが、作業名から判定までの列が並んだ棚卸し表を机に広げ、繰り返しの列に「不定期」とだけ書かれた欄を指しているイラスト

いまある業務一覧を、部署名を消して作業名だけにした状態でお問い合わせに添えてください。毎週繰り返している作業がいくつあるかを数えて書き添えてあれば、最初の回で判定列の話まで進めます。

送る前に1行だけ選んで、その行に入力と出力を書き足してみてください。書けない行が多くても、それが棚卸しの最初の作業なので一覧はそのまま送ってください。

AI導入支援で最初に書くのは判定列です。残すの行に並んだ操作の名前がそのまま人の確認点になるので、任せる行の仕組みづくりはその確認点を設定に落とす工程から続けます。

出典と確認日

いずれも2026年10月4日閲覧。当社の記入例は自社ウェブサイト運用の記録から取り、顧客の案件は含まない。