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株式会社SAI
コンサルティング

DXは何から始める?1つの業務から小さく始める5ステップ

執筆:清水 諒(株式会社SAI 代表取締役)

DXは何から始める?1つの業務から小さく始める5ステップ

Key Takeaways

  • DXを何から始めるかは全社構想ではなく、最初に手をつける1業務を選ぶ判断で決まる。
  • DXに取組む企業は75.7%で横ばいが続く一方、成果の中身はコスト削減が最も多く売上高増加は2割に届かない。
  • 成果が出ている企業ほど全社レベルの業務プロセス最適化に取組んでおり、小さく始めることは入口であって終点ではない。
  • DXの成果指標を設定している企業は4社に1社に満たず、設定しない理由の最多は設定方法がわからないことである。
  • 従業員100人以下でDXに取組んでいない企業が最も多く挙げた理由は、人手や予算ではなく取組むメリットがわからないことである。

DXを何から始めるかという問いの答えは、全社構想を作ることではなく、社内の困りごとの一覧から最初に手をつける1業務を選ぶことです。

「DXを進めろ」と言われた側が最初に詰まるのは、構想の壮大さではなく月曜の朝に誰へ何を聞きに行くかです。世の中の5ステップ記事に足りないのは各段階の決裁者と「ここまで終われば次へ」という到達点の2つです。各段階に決裁者と到達点を置いてあるので、その月曜の朝に動き出すところまでは決められます。

IPAの調査は日本企業1,799社の有効回答で、海外企業への調査は実施されていません。総務省の数値は日本・米国・ドイツ・中国の4か国を比べた調査研究のものです。どちらも公開された調査の集計値で、株式会社SAIが関与した案件は含みません。

成果の中身はコスト削減に寄り、全社の業務プロセスに広げた企業ほど成果が出ていると答えている

この記事の結論を先に反証しておきます。DXへの取組そのものは、すでに珍しいものではありません。何らかの形でDXに取組んでいる企業の回答率は75.7%で、経年では横ばいの状態にあります(IPA「DX動向2026」・2025年度調査・2026年7月30日第1版・2026年9月18日確認)。

問題は中身です。同じ調査でDXに取組んでいる企業のうち「成果が出ている」と答えたのは60.8%、「わからない」が26.8%でした。そして成果が出ていると答えた企業に成果の内容を尋ねると、最も高いのは「コスト(人件費・材料費等)削減」の70.9%でした。「売上高増加」は17.9%で「利益増加」は19.6%にとどまります(同報告書・同日確認)。成果が出ていると答えた企業が挙げる中身は、いまのところコスト側に寄っています。

ここから先が分かれ目になります。IPAは同じ報告書で全社レベルの業務プロセス最適化への取組を比べています。「完了している」「取組んでいる」の合計は成果が出ている企業で53.8%、成果が出ていない企業では29.5%で、報告書はこれを成果創出と強く関連していると書いています(同報告書・同日確認)。どちらが先かまでは測られていませんが、小さく始めることを終点にしない理由にはなります。1業務目で止まったまま何年も同じ規模の改善を続けている状態は、PoC止まりと構造が同じです。

だから5ステップの最後には、横展開と土台づくりが必ず入ります。以下の5つは「小さく始める手順」であると同時に、「小さいまま終わらせないための手順」でもあります。

「デジタル化まで」と「DX」の分かれ目は、業務のやり方が変わったかどうか

紙をPDFにする、FAXをメールにする。これらはデジタル化であり、DXの入り口ではあってもゴールではありません。分かれ目は道具が新しくなったかどうかではなく、その業務の手順そのものが書き換わったかどうかです。

この線引きは、国際比較でもはっきり出ています。総務省の白書によると、日本企業では新しい働き方の実現・業務プロセスの改善や改革・業務の省力化といった全社的な取組が多くなっています。新規ビジネス創出や顧客体験の創造と向上の全社的な取組は相対的に少ない傾向がうかがわれる、と同じ節に書かれています。デジタル化の効果についても、日本は各観点に共通して「期待以上」の回答が最も少なく、「期待する効果を得られていない」との回答が4か国の中で最も多くなっています(総務省「令和8年版情報通信白書」・2026年9月18日確認)。

ただし、最初の一歩がデジタル化で構いません。同じ白書は「わからない」と回答した人を除いて集計したうえで、日本でデジタル化に関連する取組を未実施と答えた割合を約50%としています。内訳は今後の実施を検討している企業が9.2%、今後も予定がない企業が40.6%です。企業規模別に見ると大企業では約25%、中小企業では約70%が未実施でした(同ページ・同日確認)。入口にすら立っていない会社のほうがまだ多いのが前提です。

ステップ1 DXのネタを探さず、現場の困りごとを業務の言葉で集める

最初にやるのは企画ではなく、聞き取りです。「DXで何かできないか」と部署に投げると、返ってくるのは流行りの技術名になります。集めるのは技術名ではなく、業務の言葉で書かれた困りごとの一文です。

  • 毎月の請求書作成に3日かかる
  • 同じ情報を3つのシステムに入力している
  • あの人が休むと業務が止まる

この一文のリストが、5ステップ全体の原材料になります。

誰が:各部署の実務担当者が1人ずつ、自分の業務について書きます。管理職がまとめて代筆すると、粒度が粗くなって後で選べません。何を:作業名・頻度・かかっている時間の3点が入った一文。どこまで:20件から30件ほど並んだ時点で打ち切ります。網羅は目的ではありません。

この作業には、それ自体に効き目があります。IPAの調査では、従業員100人以下でDXに取組んでいない企業が挙げた理由の最多は「自社がDXに取組むメリットがわからない」の54.0%でした(IPA「DX動向2026」・2026年9月18日確認)。メリットは、抽象的なDXの説明ではなく業務の言葉に翻訳した瞬間に見えてきます。

ステップ2 最初の1業務は、数字で追えて失敗しても止まらないものを選ぶ

1つに絞れない状態がどう効いてくるかは、総務省の白書に出ています。日本企業が挙げたデジタル化の課題や障壁は「人材不足」が39.4%で最多でした。次いで「明確な目的・目標が定まっていない」が29.5%、「DXの役割分担や範囲が不明確」が26.0%です(総務省「令和8年版情報通信白書」・2026年9月18日確認)。2番目と3番目は、対象業務を1つに決めた瞬間に答えが出る種類の課題です。

集めた困りごとから1つだけ選びます。選ぶ基準は3つです。

  1. 効果が数字で見える(時間・件数・エラー数のどれかで前後を比べられる)
  2. 協力的な現場がある(担当者が改善に前向きで、試す時間を出せる)
  3. 失敗しても致命傷にならない(止まっても顧客への納品や資金繰りに直撃しない)

3つとも満たす業務は、実際にはバックオフィスの定型処理に集まりやすくなります。請求書処理や経費精算のように毎月同じ形で発生する業務は、前後の比較がしやすいからです。この領域の具体的な進め方はバックオフィス自動化の記事にまとめてあります。

誰が:経営が1つに決めます。合議にすると3つに増え、3つに増えた時点でどれも終わりません。何を:対象業務名と、いまかかっている時間か件数。どこまで:「○○業務、いま月◯時間」と1行で書けたら次へ進みます。

相談を受けるときにこちらが引っかかるのは、いまかかっている時間か件数を担当者が即答できない業務です。即答できないまま着手すると、改善したかどうかを後から証明できません。

ここで先にツールを契約しないでください。契約が先に来ると、業務をツールに合わせる不自然な導入になります。

ステップ3 数週間で動くものを作り、本番の業務で試す

選んだ業務に対して、数週間で動く仕組みを作ります。既製のツールで済むならそれでよく、業務に合わせた作り込みが必要なら最小の範囲だけ実装します。ここで重要なのは完成度よりスピードで、現場が「楽になった」と体感するまでの時間を短くすることです。

試す場所は、演習ではなく本番の業務にします。テスト用のデータでは、例外処理の多さも入力の汚さも出てきません。動くものを見せるまでの手数は、生成AIで下書きが出せるようになって減りました。仕様を文書だけで詰める代わりに、たたき台を触りながら決める進め方が取りやすくなっています。この置き換え方はAI導入の進め方で工程ごとに整理しています。

広告代理店の案件では、テンプレートと生成AIを組み合わせて構成・文章・デザインの下書きを自動生成する仕組みを作りました。完成品ではなく下書きなので、担当者が直しながら使えます。

誰が:技術側が最小の仕組みを用意し、現場の担当者が実データで1週間使います。何を:全機能ではなく、困りごとの一文に直接効く部分だけ。どこまで:現場が自分の判断で使い続けたいと言うかどうか。言わないなら、対象業務の選び直しに戻ります。

ステップ4 成果指標を先に決めてから測り、社内に見せる

作ってから測り方を考えると、たいてい測れません。IPAの調査では、DXに取組んでいる企業のうち成果指標を「設定している」と答えたのは23.9%で、4社に1社に満たない状況が続いています。設定していない理由の最多は「評価指標の設定方法がわからない」で、2025年度調査の36.0%は2024年度調査の28.7%から約7ポイント上がりました(IPA「DX動向2026」・2026年9月18日確認)。

設定方法がわからないのは、全社のDXを一度に評価しようとするからです。1業務に絞れば、指標は「請求書作成が月3日から月半日になる」のように1行で書けます。設定できている企業でも指標の対象は内向きに寄っており、同じ調査では「内向きの業務改革(社内の効率化)」が80.0%で最も高くなっていました(同報告書・同日確認)。1業務目の指標が内向きになるのは自然なことで、問題は外向きの指標をいつ足すかです。

誰が:ステップ2で業務を決めた経営が、同じ場で指標も決めます。何を:測る単位と、成功と言える水準の1行。どこまで:着手前の数字を1度は実測しておきます。着手後にしか数字がないと、改善したかどうかを誰も判定できません。

測った結果は、社内に見せて初めて次の予算と協力者を連れてきます。見せる相手は経営だけでなく、隣の部署の担当者を含めてください。

ステップ5 横に広げる前に、データの持ち方と改善を回す担当を決める

成功パターンを隣の業務へ展開する前に、2つだけ土台を作ります。1つは、散らばったデータをどこに置いてどこから読むかという整理です。同じ顧客名が3つのファイルに手入力されたままでは、2業務目で必ず同じ問題に当たります。整理の順番は脱Excelとデータ基盤づくりに段階ごとにまとめました。

もう1つは、改善を誰が回し続けるかです。総務省の白書によると、日本でシステム開発を自社主導で実施していると答えた企業は46.0%で、海外では約80%となっており大きな差があります(総務省「令和8年版情報通信白書」・2026年9月18日確認)。全部を自社で抱える必要はありませんが、仕様を決める役と直し先を判断する役だけは社内に置いてください。この線引きは内製化の記事で扱っています。

誰が:経営が改善の担当者を1名指名し、技術側がデータの持ち方を設計します。何を:2業務目の候補と、1業務目で作った仕組みの引き継ぎ先。どこまで:1業務目の担当者が異動しても止まらない状態になったら、次へ広げます。

DXを何から始めるかでよくある質問

Q. 何人くらいの会社から始められますか?

規模の下限はありません。ただし規模によって出発点が違います。IPAの調査では従業員1,001人以上の企業の取組率は98.7%に達する一方、100人以下では41.6%にとどまっていました(IPA「DX動向2026」・2026年9月18日確認)。小さい会社では体制を作ってから始めるのではなく、ステップ1と2を経営者自身が1日で終わらせるほうが早く進みます。

Q. ツールは何を選べばいいですか?

最もよく聞かれ、最も順番が違う質問です。ツール選定はステップ3の中で、対象業務が決まってから考えれば十分です。先に契約すると業務をツールに合わせる導入になり、現場に使われません。課題が先で道具は後、という順番だけ守ってください。

Q. 専任の担当者や情報システム部門がいなくても進められますか?

1業務目の主役は、その業務を毎日やっている担当者です。技術側は外から足せますが、どの作業が面倒でどこが例外かを言語化できるのは現場だけで、その部分は外注できません。外部の手を入れる場合も、ステップ2までは社内で終わらせてから相談するほうが話が早くなります。手順の設計から一緒に進める形はAI導入支援として提供しています。

Q. 経営から「売上につながるDXを」と言われた場合はどうしますか?

1業務目に効率化と売上の両方を背負わせないでください。IPAの調査では、成果指標を設定している企業でも指標の対象は内向きに寄っています。「外向きの業務改革(新たなビジネスや顧客価値の創出)」を対象にしているのは33.5%で、経営改革を対象にしているのは16.3%にとどまりました(IPA「DX動向2026」・2026年9月18日確認)。外向きの指標は2業務目以降で足す前提にして、1業務目では測れるものを確実に測るほうが、結果として早く売上の話に届きます。

SAIの視点:DXの相談は2業務目の担当者が決まっていない会社ほど止まる

相談を受けて中身を聞いていくと、1業務目の選定より先に詰まるのは引き取り手の話です。ここが空欄のまま進んだ案件は、1業務目がうまくいっても次に入る前に置き去りになります。株式会社SAIは、困りごとの整理から最初の1業務の選定・実装・定着まで現場に入って進めます。契約の形や関わり方はFDE型の伴走開発のページに条件を書いています。

導入事例では、広告代理店の案件とBCP支援の企業の案件を公開しています。広告代理店では制作と運用の手が足りない業務から、BCP支援では資料作成とヒアリング整理が労働集約的だったところから着手しています。

お問い合わせをいただいた最初のやりとりは、困りごとのリストを一緒に読むところから始まります。前後を数字で比べられる業務がその中にあるかどうかで、ステップ2に進めるか集め直しに戻るかが分かれます。